文系出身でも楽しめる「数学」の本質! 人類に残された最後の超難問「ABC予想」とは?
公開日:2019/4/30
学生時代を過ぎてしまうと、途端に縁がなくなる人も多い「数学」。だが、最近では就活で数理的要素が重要視されるなど、たとえ文系といっても数学は無視できないジャンルになりつつある。えー、まだ苦しむの?…思わずそう呻いてしまう人もいそうだが、そんな人も数学のロマンや面白みを感じることができたら、ちょっと数学に興味が持てるようになるかもしれない。
『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(加藤文元/KADOKAWA)は、2012年に京都大学の望月新一教授によって発表された「IUT理論」を一般向けに解説しようとする意欲的な一冊。なにしろこのIUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)は、「あまりにも新奇な抽象概念が複雑に絡み合った理論のために内容を確かめるのが極めて困難」とされ、現時点では世界中の数学者の間でも受け入れられていないハイパーな理論なのだ。
だが、望月教授の古い友人であり研究仲間でもある著者にしてみると、決してその理論は新奇な抽象概念の絡み合いなどではなく、あくまでも「自然な考え方」に根ざしたものとのこと。そこにある基本思想は高度な数学的専門用語を駆使しなくても一般向けに伝えられるし伝える意義がある、そう考えた著者が書き下ろしたのが本書だ。
時折、数学の世界にはまだ「人類が解けていない難題」があると言われるのを聞いたことがないだろうか。中学・高校レベルだと数学はさまざまな定理に基づく「完成された学問」に思えるが、本当の数学とは常に不完全で、人間の手で進歩していく学問。しかもその進歩は、既存の枠組みを破壊し乗り越えるような理論から起きることも多く、本書のテーマであるIUT理論はまさにそれ。
「ABC予想」という難問中の難問を解決したのではとマスコミも巻き込む大きな話題になったというが、なんとその考え方のベースには「足し算と掛け算の関係」という小学校レベルで習う当たり前を見直すことが含まれる。あまりに斬新すぎて数学界の理解が追いつかない状況だそうだが、そんな最先端の革命的理論が生まれたのは、ここ日本。その事実は単純に興味深い。
ちなみに本書は「数学者」という職業の内実も教えてくれる。数学者たちは何か新しい発見をしたら、とにかく論文にして数学者のコミュニティで「真価を問う」段階に入るが、中でもジャーナル(専門雑誌)に掲載されることは最重要。そのためには査読を通ることが必要で、それには短くても3ヶ月、長いものは数年かかる。近年は査読前に論文サーバへ投稿する研究者も多く、リアルタイムで最前線の研究が共有できるのは大きなメリットにもなるとのこと。なお数学は大掛かりな実験装置が不要な分、研究費は安く済みそうなものだが、実際には国際的な共同研究や情報交換などコミュニケーションにかかる費用がバカにならず、案外お金のかかる学問…などなど、数学者の世界はなかなか知られていないだけにかなり新鮮だ。
なお著者の狙い通り、豊富な比喩でかなりわかりやすく解説されているため、私のようなかなり数学音痴な人でも興味深く読めること、普段考えもしない視点で世界を見るワクワク感があることは特筆したい。こういうのが数学の「本質的な面白さ」なのかも。
文=荒井理恵