定年後のアルバイト先はピンサロ! 風俗未経験の堅物おじさんがボーイ業に大奮闘する漫画
更新日:2019/5/10
キャバクラやホスト、風俗といった“ナイトスポット”を舞台にした漫画は、そのテーマに即して刺激的なストーリー展開になっていることも多い。そんな中でほかの作品とは一線を画しているのが、風俗ならではのエロい描写を挟みながらも、定年男性のアルバイトチャレンジを描いた『はたらくすすむ』(1)(安堂ミキオ/講談社)だ。本作はピンサロ(ピンクサロン)の風俗嬢×真面目な元サラリーマンという異色の組み合わせの登場人物たちの姿を通して、読み手が自分の生き方を見つめ直すこともできる作品だ。
■風俗未経験の堅物主人公が、ピンサロのエロい営業に翻弄される…
主人公は、小さな下着メーカーの営業をして40年の会社員人生を終えたばかりの、平凡な元サラリーマン・長谷部進(66歳)。妻を亡くした進は、一緒に暮らす一人娘に家庭内で煙たがられたことをきっかけに、清掃員のアルバイトに応募する。しかし、そのアルバイト先は、なんとピンサロ! しかも、清掃員として採用されたにもかかわらず、進は店内のボーイとしても働かされるようになってしまう…。
ピンサロとは、女の子たちが口や手で男性の性欲を満たしてくれるお店。一般的な風俗店よりも低料金であるがゆえに、別名「諭吉風俗」とも呼ばれている。女の子たちはシフト制で給料は日払い。店内で得た指名数が給料に直結し、指名されないことが続けば解雇されることもあるため、彼女たちは毎日、顎が疲れるほど数多くの男性客の欲求を満たし、リピーターを増やそうと努力している。
風俗店未経験者である進は、風俗嬢が気軽に発する卑猥な単語や、目の前で繰り広げられるプレイにドギマギしながら、愛情のない相手に性行為を提供する風俗嬢の姿に抵抗感を覚える。
しかし、多忙のためうがいしてゆすげない口の中を大量のミントタブレットを噛むことでスッキリさせながら、次の客の相手をする風俗嬢たちのたくましさに気づいた時、進の気持ちは180度変わるのだ。
“あの娘たちが頑張れば客は満足して帰る 人のために明日への生きる活力を与えているんだ 僕は まだ 何もしていないじゃないか”
40年間、満員電車に揺られ通勤し続けてきた進が知りえなかった、「風俗」という特殊な世界のルールや、そこで懸命に生きる女の子たちの責任感の強さとたくましさ。そのすべてが胸に突き刺さり、進はこれまでの自分の生き方を振り返るようになる。
豊満なボディの風俗嬢や客たちのプレイなど、きわどい描写だけでは終わらない“深み”が本作にはある。風俗店という特殊な職場でのアルバイトが、決められた働き方しか知らなかった主人公を今後どう変えていくのか必見だ。
■世のサラリーマンが本当に大切にすべきものとは?
男性にとって仕事はかけがえのないもの。「大切な家族を養わないと…」、そう想いながら毎日懸命に働いているサラリーマンは多いだろう。だが、時には家族を幸せにしようと始めた仕事が災いして、大切な人の心を傷つけてはいないだろうかと振り返ってみてほしい。
仕事一筋、風俗店未経験の進は、傍から見れば良き夫であり、良き父親だ。ところが、亡くなった妻は、生前家庭の中では機嫌が悪く、幸せそうではなかった。進にも不満を漏らすこともあったほどだ。働くことに集中してしまうがゆえに、いつの間にか「家族を幸せにしたい」という気持ちをどこかに置き忘れてしまってはいないだろうか…。
亡き妻との日々を振り返る主人公の言葉は、男女問わず全ての人たちに、大切な人たちと一緒に過ごす時間の意義を教えてくれる。
「ポロリ」と「ホロリ」の両方が楽しめる本作は、家族との仲がギクシャクしてしまった時や、家庭を立て直したいと思った時にもおすすめしたい1冊。風俗嬢たちと徐々に距離を縮めていく進の姿は、きっとあなたの励みになるだろう。
文=古川諭香