累計130万部突破のファンタジー「八咫烏」シリーズ、人気の秘密とは? 全6巻が文庫化!

文芸・カルチャー

更新日:2019/5/9

『弥栄の烏』(阿部智里/文藝春秋)

 ついに累計130万部を突破した阿部智里の「八咫烏」シリーズ。山神によって創られた〈山内(やまうち)〉と呼ばれる異界を舞台に、人間の姿に変化する八咫烏の一族を描き出すファンタジー小説だ。一族を統治する“金烏(きんう)”――宗家の長たる奈月彦(なづきひこ)を中心に展開する本シリーズを、このたび『弥栄の烏』が文庫化されるのを記念して総ざらい! 未読の方にもおすすめのポイントをご紹介しよう。

●キャラクターの相関関係に萌える!

 生まれに複雑な事情を抱え、崇められながらもどこか敬遠されている日嗣の御子・奈月彦。1巻『烏に単は似合わない』で描かれるのは、政をとりしきる四家の姫君のうち誰が彼に嫁ぐのかという入内バトル。2巻『烏は主を選ばない』では、その裏側で奈月彦が何をしていたのかが描かれると同時に、もう一人の主人公、奈月彦の従者・雪哉が登場する。彼もまた生い立ちに複雑なものを抱え、ぼんくらのふりをして生きてきたことや、秘めた内面が明らかになっていくにつれ、物語は深みを増していく。特に、上級武官養成所に身を置いた彼を中心に展開する4巻『空棺の烏』。男子校群像劇のような青春模様を見せてくれるだけに、その後襲いかかってくる悲劇は重たくのしかかる。ひとたび読み始めたら、彼らの運命の先が気になって最後まで読まずにはいられない。

●緻密につくりこまれた世界観と、謎に次ぐ謎

 閉ざされた“山の内側”で繰り広げられる雅な政の世界。……と思いきや、3巻『黄金の烏』ではなんと、八咫烏たちを喰らう凶暴な大猿が山の外側から侵入してくる。その戦いを3・4巻で描いていたかとおもいきや、5巻『玉依姫』では、山神に贄として捧げられる女子高生の志帆が登場。しかも、山神と大猿にとらえられた彼女を監視するのは、奈月彦。ハイファンタジー小説を読んでいたと思っていたら、実は現実世界に連なる物語だった……というシリーズ最大のどんでん返しが明かされる。だがそれでも納得してしまうのは、細部まで緻密につくりこまれた世界観があってこそ。そして先に書いた人間関係が生きるのも、この壮大な背景があってこそなのである。

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●実はどこから読んでも楽しめる!

 本シリーズは基本的に、第1部完結巻となる6作目を除いて、どこから読み始めてもなじみやすい構成となっている。最初に手を出すのに特におすすめなのは『烏に単は似合わない』と『空棺の烏』。前者は女子校モノ、後者は男子校モノの雰囲気があり、細かいファンタジー設定抜きにして人間ドラマに注目するだけでも楽しめる(しかも人間関係を把握できる)。ファンタジーはちょっと苦手かも、という人におすすめなのは『玉依姫』。八咫烏たちに戸惑う志帆の視点は読み手に近く、世界の謎も追いやすい。第二部が始まる前にぜひとも山内への旅に出かけてみてほしい。

文=立花もも