非正規雇用、失業、ニート、ホームレス… 「働くこと」って本当に必要?

マンガ

公開日:2019/5/10

『働く、働かない、働けば』(巳年キリン/三一書房)

「プレカリアート」――。パートタイマー、アルバイト、フリーター、契約社員、派遣社員などの非正規雇用形態で生計を立てる人、何らかの理由で職を得にくい状況にある人々、および失業者、ニート、ホームレスなどの総称である。日本でも年々、増加傾向にあり、今後も増え続けると予想されている。そんなプレカリアートを描いた『働く、働かない、働けば』(巳年キリン/三一書房)は、「働く」ということに根本からアプローチしたコミックである。

 自己啓発本の数々はこう指南する。「好きなことをやれ!」「努力は報われる!」「やりがいを持って仕事をしろ!」……やりがい? やりがいって、なんだ? 自分の能力を発揮すること? 人から感謝されること? しかし、その土俵にも立てない人たちは、どう生きればよいのだろうか。

 工場で働く主人公。一日中、流れ作業をして、日銭を稼いで、帰って寝るだけの毎日。仕事が入らないこともある。来月、家賃を払えるだろうか? 「人生は一度きりだと思っている。今すぐやりたいこともある。だけど、たまに労働力として生かされているだけなのかと思ったりする」――。

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 主人公は働くということを考えながら、様々な人たちと出会う。派遣で働く事務員。「みんなの役に立つぞ!」と作成した資料が、「やっぱりいらない」と一蹴される。休むと契約を更新してもらえないのではないかと、産休を取れない。保育園の子供のお迎えのため早退する社員を、羨ましく思う。

 ホームレスのサポートをする男性。ホームレスの中には、建築現場で事故にあった人もいる。うつで働けなくなったが、生活保護を受給できなかった人もいる。サポートする男性は言う。「すべての人が清廉潔白な頑張り屋ではない。そもそも、これだけ人を使い捨てにする社会で、怠け者であることの何が問題なのだろうか」。

 著者は本書を執筆する上で、非正規雇用で働く人から何度も聞いた言葉があるという。それは、「この会社の正社員になりたくない」――。仕事の内容よりも、パワハラがあるなど、人が粗末にされている職場でよく耳にしたという。いま日本は、「正社員として働くことが正義」だという風潮だが、それが果たして正しいのか?

 本書を読んだからといって、必ずしも答えが見つかるとは限らない。著者自身もそう述べている。「問題がある時は、その人の事情に合わせて上っ面ではない解決ができるように、ていねいに向き合える社会環境が必要。答えがあるとしたら、ひとまずそんなところかもしれません」――。

 わたしは恵まれたことに、自分のやりたい職に就いている。しかし、この仕事だけで生計を立てているわけではなく、アルバイトのほうが本業かと思うくらいだ。友人たちからは「好きなことができて羨ましい」と言われるが、この生活の一体なにが羨ましいのかと、ふと思う。もはや“好きな仕事”なのかどうかもわからない。

 ぜひ本書を読んで考えてみてほしい。働くとはどういうことなのか? 生きるとはどういうことなのか? 一度、立ち止まってみてほしい。そして自分なりの答えを見出して(あるいは見出せずとも)、一歩一歩、前へ進んでいこうではないか。

文=水野シンパシー