灘の「折り紙授業」、筑駒の「水田稲作学習」…超名門校で行われる不思議な授業

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公開日:2019/5/13

『名門校の「人生を学ぶ」授業』(おおたとしまさ/SBクリエイティブ)

 過酷な受験戦争を勝ち抜き、名門進学校に入学した若人たち。新学期を迎えて日々勉学に勤しんでいることと思います。きっと想像もつかないような難しい勉強をしているはず……と、地方のごく平凡な学校を卒業した筆者は、ぼんやりとそんなイメージを抱いていました。しかし『名門校の「人生を学ぶ」授業』(おおたとしまさ/SBクリエイティブ)に登場する16の名門校で行われている授業は、また別の意味で想像を超えていたんです。

 同書は、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が灘高校や筑駒、開成などの誰もが一度は耳にしたことがある名門校のユニークな授業に潜入し、その授業を実況中継するというもの。「名門校とユニークが結びつかない」という読者も多いと思うので、その一部をご紹介します。

 学生の数に対して東大合格率ナンバーワンを誇る、超進学校・筑波大学附属駒場中学校・高等学校では中1と高1を対象に「水田稲作学習」が行われています。その名のとおり田んぼで稲を育てる授業です。おおた氏は、6月初旬に同校が管理・運営する水田で行われる「田植え」の授業を実況中継することに。

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苗箱係とロープ係が到着すると、手ぶらの先発隊が一列に水田に脚を踏み入れる。最初はにゅるっとして気持ちが悪いがすぐに慣れる。苗箱係から苗を1束ずつ受け取り、ロープ係が張るロープに沿って植える。(中略)みな慣れた手つきで自分たちのクラスの担当の場所に植えていく。そのすぐ脇を、数分おきに井の頭線が通過する。不思議な光景だ。

 井の頭線から筑駒生の田植え風景を見た乗客たちは、彼らが超名門校の生徒だとは思いますまい。そして、田植え作業が終わると、田んぼの中で相撲を取る生徒や、それを笑いながらはやし立てる生徒など、なんとも牧歌的な雰囲気のなか授業は終了。なんだかほっこりしますね。

 筑駒の水田稲作学習最大の特徴は、田植えをするだけでなく、4月下旬の苗床づくりや種まき、真夏の除草作業、秋の稲刈りから脱穀まで稲作のほとんどの工程を実際に体験する、ガチの稲作をすること。その後、業者に託して翌春に「赤飯」が納品されるまでの一大プロジェクトなのです。もちろん、なにゆえ都心の超進学校・筑駒で約70年間も水田稲作学習が行われているのか……その謎の答えも同書に綴られています。

 筑駒の「水田稲作学習」のほかにも、“折り紙”でギリシャ3大作図不可能問題を解く灘中・灘高の授業や、約2カ月間“岩を削り続ける武蔵高校・武蔵中学の授業”など、ひと言では言い表せない不思議な授業のオンパレード。どれもバラエティに富んでいますが、登場する16校すべての授業に共通点があると、著者のおおた氏は語っています。

「本書で紹介した授業では、教科書を用いない代わりにたくさんの『寄り道』があった。『あそび』があった。『ムダ』があった。まさしくそれこそが、生徒たちの知的好奇心を刺激していた」

 そして、それらの教育の効果は「人生に逆風が吹いたとき、あるいは先行きが見えない五里霧中の状態になったときにこそ、そのありがたみがわかるはず」と話します。本当の意味で“生きるための教育”とは何なのか、同書にはそのヒントが隠されているのかもしれません。

文=真島加代(清談社)