電子書店の閉店と統合のインパクト――Microsoftストアとebookjapanが示したもの
公開日:2019/5/20
ジャーナリスト・まつもとあつし氏が、出版業界に転がるさまざまな問題、注目のニュースを深堀りする連載企画です!
■Microsoftでさえ電子書籍事業は難しかった
先月、また電子書籍を販売するストア(電子書店)の終了が発表された。それが中小事業者のストアではなく、あのMicrosoftだということでショックを受けた関係者も少なくなかった。
AppleやGoogleに対してMicrosoftのアプリビジネスはあまり成功していない。電子書店も同様で、Apple BooksやGoogle Booksに対して、Microsoftストアで本を買ったという人は筆者の周りでもほとんどいなかったというのが実情だった。本を閲覧するビューワーとして、こちらもシェアが高いとは言えないブラウザ「Edge」の利用が前提となっていたのも、利用が進まなかった背景にはあると言えそうだ。
「ブラウザで本を読む」と言われてもピンと来ない読者も多いはずだ。しかし現在主流となっている電子書籍フォーマット「EPUB3」はHTML5というWeb用の記述言語がベースとなっており、Webブラウザとは実は相性が良い。Microsoftはその標準化にも積極的に関わっており、Windows 10のデフォルトブラウザ「Edge」への対応も率先して進めていた。単に読書するだけでなく、ブラウザ上でアンダーライン(マークアップ)やコメント(注釈)の共有ができるなど、Kindleなどにも見劣りのしない機能を備えていたのだ。しかし、他のアプリ同様、肝心の電子書籍のストアでの販売が芳しくなく、資本的には余力があるMicrosoftでさえも撤退を決断せざるを得なかった、ということになる。
Microsoftは、既に購入した電子書籍を全額払い戻したうえ、マークアップや注釈機能を利用していたユーザーには更に追加で25ドルを支払うとしている。7月以降、本が読めなくなるだけでなく、そこに加えていたユーザー情報も利用できなくなることへの処置と言えるだろう。Microsoftは今後、Windows上での他の電子書店アプリや彼らのEdgeブラウザの利用拡大に資源を振り向けていくことになるはずだ。
■移行という可能性を示したebookjapanだが
電子書籍は所有ではなく、アクセスをする権利を与えられる契約であることがほとんどだ。電子書店(ストア)が終了してしまえば、いずれその本にはアクセスできなくなり、そこに付与した情報もなくなってしまうことを、今回のMicrosoftの決定は改めて印象づけた(これと共通するのが、音楽の世界ではダウンロードした電気グルーヴの楽曲が再生できなくなった事象だ)。ストアの終了は、現実世界の「本屋さん」の閉店よりも、ある意味ではダメージが大きいと言えるだろう。
電子書店の閉店ではなく、統合という動きも始まっている。昨年末発表された、Yahoo!ブックストアのeBookJapanへの統合だ。これまでもYahoo! ブックストアの運営はeBookJapanを運営するイーブックイニシアティブジャパンが行ってきたが、今年2月に統合が行われ、サイト名もすべて小文字のebookjapanへと変更となった。
購入していた本がそのまま読める統合、という選択肢はユーザーへのメリットは大きいように見えるが、実際統合が行われると既存ユーザーから以下のような不満の声が次々と上がった。(2019年3月時点)
●旧eBookJapanの利用者もYahoo! IDを取得しなければ読書情報などの引き継ぎが行なえない。
●旧eBookJapanの特徴の1つであった背表紙の表示機能が縮小された。
●旧eBookJapanのビューワーの機能が一部使えなくなった。
もともとKindleなどのライバルに比べ高度な本棚でのシリーズ表示などeBookJapanは読書家・マンガも含めた本好きに支持されていたサービスだ。そこに、比較的ライト層が多いとされるYahoo! ブックストアが統合されたことによって、コアな利用者にとっては機能やデザインが「劣化」してしまったように感じられる状態が続いている。アプリのアップデートなどでこの状態が改善されることに期待したい。電子書籍ブームが一段落したいま、今後も予想される電子書店の終了はユーザーにとって本棚を失うほどの大きなインパクトがあり、「統合」という選択は本来ユーザーにとっても大きなメリットであろう。
まつもとあつし/研究者(敬和学園大学人文学部准教授/法政大学社会学部/専修大学ネットワーク情報学部講師)フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー。電子書籍やアニメなどデジタルコンテンツの動向に詳しい。atsushi-matsumoto.jp