娘を孤独にしたくない! 「親婚活」に挑んだ家族の物語『うちの子が結婚しないので』
公開日:2019/5/18
「親婚活」を知っているだろうか? 親婚活とは、「未婚の子供の写真、年齢、職業、年収、結婚相手への希望などを記載した身上書を親たちが持ち寄り、子供の代わりに見合いをするもの」。お見合いの会で親同士が交換した身上書をそれぞれの子供が検討し、互いの希望が合えば、当人同士で見合いやデートをして結婚相手を探すのだという。
結婚や出産が「絶対」ではなく、生き方のロールモデルを自分で探さなければならない現代。親婚活は過保護だ…と思う人もいるかもしれない。だが、親が娘や息子の将来を心配するのはある意味当然のこととも言える。
垣谷美雨さんの『うちの子が結婚しないので』(新潮社)は、そんな親婚活の悲喜こもごもをリアリティたっぷりに描いた小説だ。
主人公は老後の準備を考えはじめた57歳の千賀子。派遣でプログラマーをしている。千賀子は一人娘である28歳の友美の将来を心配していた。アパレル関連の会社に正社員として勤務しているが、給料も安く、男性の影はない。毎日疲れた顔で夜遅く帰ってくるのが気がかりで、身の回りの世話もつい千賀子がやってしまっていた。
親の死後、娘は孤独な老後を送るのでは…? と心配した千賀子と夫は、婚活に乗り気ではない娘の前で、今後の人生を具体的にシミュレーションして見せる。親の死が迫っている現実や、金銭的な問題、病気のリスクにも触れ、今が婚活の“最後のチャンス”であることを真摯に訴えた。
そうしてはじまった親婚活。そこは“まさに比較と品定めの場”で、予想以上に厳しい現実が待っていた。初めて参加した親婚活では、身上書を交換してもらえたのは4人。だが、見合いの申し込みの電話をしても断られてしまう。
親婚活では、7割以上の男性が有名大学を出ていて、その多くが公務員か、有名な企業に勤めている。美醜、年収、大学の名前、勤務先名、親兄弟の学歴、住んでいる場所の地価、身長、体重…これら全てを総合して結婚偏差値が決められ、親婚活の中でも歴然とした格差が存在した。また、共働きなのに家事を全て妻へ任すつもりの両親や、母子家庭で育った妻を求める父親など、絶句してしまう家庭が次々に登場するのも驚いた。
千賀子は「結婚が絶対」と思っているわけではない。ひとりで生きる幸せが存在することも、離婚するリスクがあることも認識した上で、娘に結婚することをすすめた。
婚活を通して、彼らは多様な世界を垣間見る。女性を下に見ない男性が滅多にいないことや、結婚する目的は、人によって異なること。婚活を通して、読み手の生き方や譲れない価値観も問われている気がした。
千賀子はどんなに傷ついても、明るい態度を崩さず「やるべきことを淡々とこなしていこう」と、反省と対策を繰り返し、1年間ひたすら親婚活に励む。その結果はぜひ本書で読んで頂きたいのだが、親目線で子供の結婚相手を考えることは、長年娘を見つめ、また結婚生活を維持してきた彼らだからこそ気づける側面というのが確かにあった。先行きのわからない時代に、あえて誰かと一緒になる意味や、恋愛と結婚の違い、社会での女性の立ち位置など、幅広い問題を投げかけてくる物語である。柔軟性を持ちながらも、貪欲に生きて行きたい人にオススメだ。
文=さゆ