これから恋を知る人、今恋をしている人、かつて恋をしていた人へ――桜庭一樹と辻村深月が送り出す珠玉の「恋」を絵本で!
公開日:2019/5/21
ディズニーを観て育った私はどうしても、恋をして結婚してめでたしめでたしの理想から抜け出せずにいる。……と、さみしげに言った友人がいる。彼女が好きになる人は決まって女性だ。「好き」の想いに貴賤はなく、自分の想いは自分だけの大切なものだとわかっていても、幼いころに植えつけられた“普通”や“正解”とのはざまで苦しむ、彼女のような人は少なくない。だから、今、岩崎書店から2冊の「恋の絵本」が刊行されたことがとてもうれしかった。大人も子供も、自分だけの「好き」を大切にして、そっと静かに育てていきたいと思える、そんな絵本だったからだ。
第1弾となる『すきなひと』(桜庭一樹・作、嶽まいこ・絵)は、ある夜、「好きな人がいるから追いかけている」という“もうひとりのわたし”に出会った“わたし”。好きな人って、なに? どこにいる、どんな人なの。“わたし”は“もうひとりのわたし”と一緒に、見知らぬ誰かを追いかけはじめる。
やがて夜は朝になり、夏は過ぎて冬になり、朝がまた夜になっても。いつか出会えるかもしれない、世界のどこかにいるかもしれない、誰かを探して。
刊行に際し、桜庭さんは「絵本なら、厚さ5ミリの紙の束に、『世界のすべて』を魔法のように閉じこめることができる。そう信じ、わたしなりの大河ロマンを323個の文字に圧縮しました。」とコメントを寄せているが、この絵本に描かれているのはまさに『世界のすべて』だ。色とりどりで奥深い世界のどこかに潜んでいる、たった一つ、自分だけの「好き」を探して冒険に出る。たどりつくのが人より遅くたっていい。そんな優しく温かい希望に満ちている。
同時刊行の『すきって いわなきゃ だめ?』(辻村深月・作、今日マチ子・絵)は、「子どもの頃、『好きな人、誰?』という話題が苦手でした。気になる子はいるけど、『好き』って言った瞬間に、その子をいいと思う気持ちが自分の中から逃げていってしまうようで。」という辻村さんの想いから始まった。
恋の話はとかく共有事項になりやすい。誰が好きなの、どこが好きなの、どんなふうに進展したの。頬をそめて語り合う時間はとても愛らしく愉しいものだけれど、反面、「言わなきゃいけない」という強制力も発生する。
だけど本当は、好きな人の素敵なところは自分だけのものにしておきたいし、みんなと同じ言葉で並べてしまったら、大切なものが壊れてしまうような気がしてしまう、辻村さんのような子は少なからずいたはずだ。
「好きっていわないなら、それは本当の好きじゃないんだよ」と言われた主人公が思い悩む本作は、「みんなと同じ」じゃなかったとしても、内側に生まれた想いはちゃんと本物なのだ、誰かを想って嬉しくなったり苦しくなったりすることは、それだけで尊いものなのだと教えてくれる。
「これから恋を知る人、今恋をしている人、かつて恋をしていた人へ贈る珠玉の絵本」として岩崎書店が送り出す「恋の絵本」。いま恋をしている子供にも、これから恋を知る大人にも、みんなに読んでほしい珠玉のシリーズである。
文=立花もも