21世紀型エロは中国がリードする!? 中国“性産業”事情を追う驚天動地の現地レポ
更新日:2019/5/23
日本の10倍以上の人口を抱え、今や世界経済を牽引する超大国となった中国。
そのエロっぷりもまた超大国と呼ぶにふさわしいことを教えてくれるのが本書『性と欲望の中国』(文藝春秋)だ。
著者である安田峰俊氏は現代中国をテーマにした著書を多数ものしている専門家なのだが、その氏をして「この10年で大きく変わった」と言わしめるほど、中国のエロ事情は流転し続けているという。
中華人民共和国はその建国以来、社会主義イデオロギーが強かった1970年代まで、性的に潔白な国家だった。中国共産党はそれ以前の時代に存在した一夫多妻制や売買婚をほぼ一掃したほか、建国直後の1950年の時点で国内から売買春をほとんど撲滅し、1964年にはその結果として性病が根絶されたとする宣言まで出した。
ところが、70年代末から当時の最高指導者・鄧小平が改革開放政策を始めたことで、状況は一変する。経済発展はそのまま拝金主義全盛につながり、一旦は滅んだはずの「お金で左右できる性」が華々しく復活したのだ。
第一章「拝金の性都・東莞の興亡」と第二章「人民解放軍に翻弄された『世界最大の売春島』」では、80年代に取り入れられた自由経済で「富と性の味」を思い出した中国人たちが、いかに性産業を復活させ、ソドム顔負けのセックス・シティを作っていったかを、歴史的考察と現地取材を通して浮き彫りにしていく。
90年代には「他の地域の中国人からも恐れられるほどのアナーキーな場所」だったという広東省の中でも、特に性産業に先鋭化した街・東莞。また、島全体が性産業を営み、「荒淫島」の異名を取った下川島。そうした場所で、R18ではない当サイトでは書くのも憚れる変態行為の数々が提供されていた実態が事細かに記されているので、興味のある向きはぜひ読んでみてもらえればと思うが、読後「よっしゃ、一丁東莞か下川島に言ってみるべ」と思っても、もう遅い。2つの性都は、現在の最高指導者・習近平によって徹底的に弾圧され、消毒されたのだ。表向きは腐敗一掃のため。だが、裏には中国共産党内の熾烈な権力争いがあったという。セックス・スキャンダルで政敵を叩き潰す独裁政権の苛烈さにはうすら寒い思いがするが、本書の真の読みどころは第三章以降にやってくる。
第三章「AIとエロの奇妙な融合」では「中国、始まったな」というしかない最新エロ産業事情が、第四章「貴州ラブドール仙人」では山中のど田舎でラブドールたちと夢の生活を送るおじさんの半生が、第五章「LGBTの葛藤と受難」では伝統的価値観に苦しむLGBTの人々とその余波で虐げられる女性たちの残酷物語が、そして第六章「日本AV女優ブームの光と影」では日本との力関係がすっかり反転した現実をしみじみ感じさせるエピソードが書かれているのだ。
現代中国のエロ事情から「中国の秘められた真の姿に肉薄せん」とした著者の試みは十二分に果たされている。そして、その裏側にじんわり浮かび上がってくる彼我変わりない超格差社会の実情に、なんともほろ苦い思いがこみ上げてくるのはきっと私だけではないはずだ。
文=門賀美央子