彼のスマホに浮気の証拠が……。そのとき、“みないフリ”をした彼女の真意は?

マンガ

公開日:2019/5/27

『泥の女通信』(にくまん子/太田出版)

 自分のこと、友達のこと、恋人のこと……すべてが順風満帆なタイミングなんて、意外と少ないもの。昨日までは夢のような時間を過ごしていたかと思えば、急に真っ暗な闇の世界に突き落とされることも多々ある。『泥の女通信』(にくまん子/太田出版)は多くの女性が経験する、ダメダメな「私」たちを描いた作品である。

 本作は、全15話のオムニバス短編集。MANGA COMPLEXで配信された14話に加えて、単行本オリジナルの描き下ろしが追加されている。元カノを引き合いに出す恋人と対決する女性を描いた「元カノ魂いつまで」や、朝起きたら鬼の形相をした知らない女が立っていた「なんかそういう日」など、“泥の女”という禍々しいタイトルの通り、登場人物たちはやっかいな恋愛と人生を歩んでいる女性たちだ。

「みえない世界」の主人公は、視力低下と目つきの悪さに悩んでいる女性・タマヨさん。ある日のデート中、交際中のチロ君から言われた「メガネ絶対似合うよ。インテリメガネ美人だ」という一言をキッカケに、眼鏡デビューを果たす。“みえる世界”を手に入れた彼女は、母親の目尻のシワや街中のゴミなど、これまで気付けなかった些細なことを少しずつ発見する。

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 数日後、2人は眼鏡を作って以来はじめてのお泊まりデートをする。「ほらやっぱり! 眼鏡似合う!」と自信満々に褒める彼を見て、自らの単純さを感じながらも顔を赤らめるタマヨさん。誰が見ても、本当に幸せなカップルだ。お風呂を出たタマヨさんは眼鏡をかけて、いつも通りベッドに向かう。その時、うたた寝する彼のスマートフォンが“みえた”。

“今彼女と一緒なんでしょ?”
“関係ないでしょー!早くみきに会いたい。みきのことが一番好き”

 そして、タマヨさんは眼鏡を外す。体を重ねている途中、彼が残念そうにタマヨさんに眼鏡を外した理由を問う。タマヨさんはいつも通りの声と表情で「見えないままの方がわたしこの世界を好きでいられる気がして…」と呟くのだった。

 きっと、彼女が眼鏡をかけることはもうない。たとえ不便の多い“みえない世界”であったとしても、自らを守るためには、そして胸が引き裂けるような痛みを無くすためには必要ないものだったのだ。

 一見遠いように思う彼女たちのエピソードだが、読み進めるうちにどこか近しいものを感じる。読了後に覚える既視感は、「私」たちの経験からくるものなのかもしれない。各話の濃厚さとインパクトの強さが印象的な本作は、すべての悩める女性たちに寄り添う作品である。

文=山本杏奈