その仕事をするためにはどんな勉強をすればいい? AI時代の子どもたちに伝えたいこと
更新日:2019/5/29
なぜ勉強はしなければならないのでしょうか。
これまでは「いい学校に入るため」「いい会社に就職するため」を理由にしていたことが多かったと思いますが、それをうまくモチベーションにつなげることができずに悩んでいる親子は多いと思います。そんなどちらの立場にもおすすめしたいのは『5分でわかる10年後の自分 2030年のハローワーク』(図子慧/KADOKAWA)です。
本書はAIが変える10年後の未来を、5人の中学生とその保護者たちがVRを通じて疑似体験してみるというショートストーリーです。AIの登場で「10年後に残る仕事、消える仕事」が話題になっている中で、はじめは本書もそうした流れに乗るものの1つかと思っていました。ところが読み進めるうちに、不安をあおったり、逆に安心させたりするだけの単純なメッセージを伝えるものではないことに気が付きました。
私たちは学校で「夢を持つことは大切だ」と教えられます。ですが、その夢を実現するにはどのようなステップを踏めばよいのかは、残念ながら現在の教育システムでもそこまで踏み込んで教えていないのが現状でしょう。そのため、勉強する努力が夢につながる仕組みを理解できず、勉強にある種の嘘くささを感じてしまい、早い段階で夢を諦めてしまう子どもは多いと思います。
この本を読んで好感を持ったのは夢を持つことを後押ししつつ、夢を語るばかりではない姿勢でした。作中では5人の中学生がそれぞれの興味関心や適性をAIにインプットすることで、将来の仕事を疑似体験していきます。たとえば、主人公のミーンは将来の選択肢の1つに、パティシエがあります。パティシエは、お菓子作りが好きな人にはあこがれの職業です。パティシエと聞いて、華やかなイメージを思い浮かべる人は多いでしょうが、本書にはパティシエの暗の部分もサラッと書かれています。「同じ職業でも年収の差が大きい」「長く続けられる仕事ではない」「1年後の離職率70%」など。
また、高校に進んだら文系を選択しようと考えていた男の子は、疑似体験を通じて「数学をやっておかないと就職のときに苦労する」ことに気が付きます。また別の男の子は、父親がそうだったという理由で自分も工業高校卒でいいと思っていました。ところが、大した目的もなく工業高校に進んで適当に過ごしていたら、近い将来は自分ができる仕事をAIに奪われ、職を失ってしまう可能性があることを知るのです。
本書を読むと、大人が果たすべき役割は子どもたちにやみくもに勉強させることではなく、その進路や夢にたどりつくための努力の仕方を教えることだと感じるでしょう。それは、目的のために興味関心とは別のものを打算的に選ばせることとは違います。興味関心は大前提。その上で、自分で選ぶ人生を自分で歩むことができるように子どもたちにさまざまな選択肢を提示してあげることが必要なのです。
そして、「AIが実用化されても、人がいる限り人同士のコミュニケーションはなくならない」というメッセージに勇気をもらうこともできるはずです。
文=いづつえり