「2019年上半期ベストセラー」総合第1位は、樹木希林『一切なりゆき』! 小説第1位に瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』
更新日:2019/5/31
大手書籍取次のトーハン、日販が「2019年上半期ベストセラー」を発表し、いずれのランキングでも、昨年9月に亡くなった樹木希林さんの『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文藝春秋)が、上半期ベストセラー「総合」第1位となった。本作は、「新書ノンフィクション」部門でも1位を獲得した。
また、小説部門(トーハン「単行本文芸書」、日販「単行本フィクション」)では、「2019年本屋大賞」を受賞した瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』が第1位となった。
『一切なりゆき』は、樹木希林さんが残した154のことば集。2018年12月20日に発売され、たちまち話題となり2019年3月には100万部を突破。現在は累計発行部数120万部(21刷)にも上る。
発売当初は、50代、60代の女性読者が中心だったが、100万部を突破してからは、30代、40代の読者が増えているという。5月29日に発表された「第12回オリコン上半期“本”ランキング2019」でも、「BOOK総合」部門第1位、「タレント本」部門第1位と快挙を見せた。
では、『一切なりゆき』の読者は、どういった感想をもったのだろうか。
この本を宝物にしています。1番好きな言葉は「面白がって生きる!」です。私も希林さんを目標にひょうひょうと面白がって生きたいと思います。47歳女性
希林さんの言葉は説教めいたところがなく、するすると心に入ってきますね。本書はこれからもずっと折に触れて読み返したい一冊です。この本に出会えて良かった!!41歳女性
ガンと闘おうとせず、自然体でいいのだと本当に心が軽くなった。人として、私も生をまっとうしようと学ばせていただいた。47歳女性
希林さんからもっと人生を面白がりなさいって背中をポンとされているような、心にじわじわ効く本です。これからもずっとそばに置いておいて、答えが欲しい時にページをめくってヒントをもらいたいです。44歳女性
これから先、どんな風に歳を重ねていきたいかと思った時、思い浮かぶのは樹木希林さんでした。こんなにカッコよくはなれないかもしれないけれど。この本は私にとって、何度も何度も読み返す大切な一冊になると思います。36歳女性
人生を楽しむための究極のコツ。それが「求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから」。この言葉が、今まで読んできたどの本の言葉より、スッと腹落ちする感じがしました。実践するのは難しいけれど、一歩でも希林さんみたいなかっこいい女性に近づけたらいいな。34歳女性
「本が売れないこの時代に半年もたたずに120万部を突破し正直驚いた」という『一切なりゆき』の担当編集者・石橋俊澄氏。「『蓋棺事定』(棺を蓋いて事定まる)といいますが、まさしく人間の真価は死後に定まるもの。あらためて、樹木希林さんという人の凄みと、彼女の言葉が持っていた強さを感じます。その言葉は作られたものではなく、普段生きているうちに反芻され醸成されていったもの。強い思考があるからこそ、自然に言葉が口からこぼれ落ちるのでしょう。達観した境地が心地よく、ポジティブで前向きな気持ちにさせてくれる部分がいい。だからこそ、多くの人の心に届いたのでは」と石橋氏は、コメントしている。
また、樹木さんと同じ病で闘病中の母親を持つ小学6年生の男の子から編集部に届いたという手紙に、「いろんな状況から学校から足が遠のいていたが、この本を読んで励まされて、学校に通い出した」と書かれていたそうで、樹木さんのメッセージを小学生までが受け取ってくれたことは、望外の喜びだったという。
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樹木希林が遺した言葉5選「人生なんて自分の思い描いた通りにならなくて当たり前」
樹木希林(きき・きりん)
1943年東京都生まれ。女優活動当初は悠木千帆、後に樹木希林と改名。文学座附属演劇研究所に入所後、ドラマ『七人の孫』で森繁久彌に才能を見出される。ドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』などの演技で話題をさらう。出演映画はきわめて多数だが、代表作に『半落ち』『東京タワーオカンとボクと時々、オトン』『歩いても歩いても』『悪人』『わが母の記』『あん』『万引き家族』などがある。61歳で乳がんにかかり、70歳の時に全身がんであることを公表した。夫はロックミュージシャンの内田裕也、長女にエッセイストの内田也哉子、娘婿に俳優の本木雅弘がいる。2018年9月15日に逝去、享年75。
『そして、バトンは渡された』は、「2019年本屋大賞」だけでなく、「ブランチBOOK大賞2018」や紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする「キノベス!2019」第1位を受賞するなど、幅広い年代から支持され、「第12回オリコン上半期“本”ランキング2019」でも、「文芸(小説)」部門第1位を獲得した。
著者の瀬尾まいこさんは、「普段は自分自身が楽しくて、また、読んでいただけた人に笑ってもらえたらと小説を書いていることが多いのですが、この作品は書きあげていく中で“こんな気持ちが書きたかったんだ”と思えた。自分にとって大切な1冊をたくさんの方に取っていただけたことが幸せ」と喜びをコメントしている。
本作の主人公・森宮優子(高校2年生)は、生まれてから4回も名字が変わり、父が3人、母が2人いる。「バトン」のようにして様々な両親の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、幸せに日々を送る。というのが大まかなあらすじ。
2017年に、初の小説『ふたご』が直木賞にノミネートされ話題となったSEKAI NO OWARI(セカオワ)の藤崎彩織さんも「実の親子じゃないからこそ寄り添う姿を、こんなにも静かに淡々と描くなんて。それがこんなにも愛しいなんて! 彼らのように家族を大切に出来たらいいなと思わされる作品」とコメントを寄せている。
また、『そして、バトンは渡された』の読者からは、次のような感想が集まっている。
あたたかくてじんわりとしていて……ものすごく深くて愛があふれるお話でした。40代女性
何か大きな出来事が起きるわけじゃないのに、ラスト1ページ、不意打ちで涙が溢れでてしまった。優し過ぎて涙が出るなんて、初めてだった。20代女性
読み終わって心がとても温かくなりました。転々と親が代わっていくという一見とても悲しい境遇に見えるが、この家族は全くそうでも無くてポジティブに、そしてハッピーで、本編のラストはちょっと涙もあり、「愛」「絆」というメッセージがとても感じられた作品だと思います。30代女性
なんでこんなにごはんがおいしそうに感じるのかなって不思議に思っていたんだけど、読み終わってから「あれは、誰かが誰かに無償の愛を注いでる時の空気感に文章で触れたからなんだ」と気づきました。30代女性
周りからの愛情があったからこんなにいい子になったんだなー。最後に分かるタイトルの意味。みんなみんな魅力的で、幸せであれ、と思う作品。20代男性
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親の離婚、同居人も名字も何度も変わった……なのに不幸じゃない。読むだけで穏やかになれる『そして、バトンは渡された』
2019年上半期の話題の2作品をぜひ手に取ってみてほしい。
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
1974(昭和49)年、大阪府生れ。大谷女子大学国文科卒。2001(平成13)年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本『卵の緒』で作家デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、2009年『戸村飯店青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞する。他の作品に『図書館の神様』『優しい音楽』『温室デイズ』『僕の明日を照らして』『おしまいのデート』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『君が夏を走らせる』など多数。