勇者と魔王が仲良くチャット!? 『もしロールプレイングゲームの世界にSNSがあったら』/連載第2回

ライトノベル

公開日:2019/6/6

 なぜかネットやスマホがあるファンタジー世界。暇さえあればインターネットばかりしている引きこもりの残念勇者が、SNSのメッセージを使って魔王に宣戦布告! しかし魔王は純粋無垢な争いを嫌う女の子。乙女すぎる魔王と勇者はチャットを通じて仲良くなり――。

 Twitter、Pixivで連載開始後に話題となり、ニコニコ漫画では脅威の800万再生を突破した新感覚チャットノベル。個性的なキャラクターたちが繰り広げる冒険と、SNSトークの一部を5回連載でご紹介!

第2回

「ん? なに見てんの?」

 魔王軍四天王である獣人族のマーコは、ひょっこりと勇者の顔に顔面を近づけて様子を窺う。きょとんとした上目遣いが可愛らしく、その後猫っぽく「ニャ?」と語尾をつけてきた。

 時刻は既に十九時を回っていて、木々が生い茂る森の近くで薄暗かったために、勇者自身の心臓が爆発することはなかったが。

「ちちち、近い! 近いって!」

 これまで人との接触を絶っていて、俗にいうコミュ障な彼としては、慌ててマーコから距離をとり、近くの木陰に避難するしかなかった。

「……やっぱ相当なコミュ障なんだねえ、勇者さんて。いやまぁ別にいいけどさ」

 マーコさん寛大、ありがとなす。あれ、もしかして魔族の人って、みんなこんなに優しいのかな? と錯覚してしまう勇者。

 彼女が勇者と合流してからは、既に一週間が経たっていた。

 マーコはアホ毛が特徴的なショートカットの真っ赤な髪で、世ではケモミミと呼ばれる毛皮に覆われた可愛らしい両耳がちょこんと出ており、身長はアホ毛込みで百六〇センチ程度となるため、勇者の背よりは若干低い。

 成人女性の平均サイズくらいのちょうど良い胸は、ぴっちりとした黒色のストライプセーターのへそ出し服に隠れているものの、その張りと形を美しく魅せており、今まで引きこもりだった勇者は少々目のやり場に困っていた。

 ただ、短パンからすらりと伸びる健康そうな太ももの先は、猫や虎が持つしっかりとしたケモノ脚となっていたため、勇者としては見るたびに(俺はそこまで興味ないけど、獣脚フェチの人からしたら堪たまらないんだろうなぁ)などと考えていた。

「暗くなってきたし、とりま今日も野宿の準備しよっか。魔王様の命令もあって、一応私は今あなたの仲間だから、それなりの配慮はしてあげるニャー」

 強制的に使わされているニャン語尾と思っていたが、マーコも特に嫌ではなさそうだ。

「晩御飯は何がいい? っても、モンスターか獣のお肉焼くくらいしかないけど」

「……」

 勇者は黙ったままスマホを取り出し、ぱっぱと画面をタップした。

「あーそうか、SNS連絡じゃないといけないんだっけ。……はいはい、なんでもいいってことね、承知〜。あと『すんません』とか気遣わなくていいよ。私も結構楽しんでるし」

 そう言うと、マーコはびゅんと姿を消して、野宿のための薪と食料集めに向かった。

 しかし魔王軍の四天王というわりに、なんか軽い人だなぁ。いや優しいからいいけど、と思いつつ勇者は、その姿を見送りながら空を見上げる。

 本来ならコミュ障で行動力もない自分が、家から旅に出て他所で寝泊まりするなど、考えられなかった。まぁそれは毎日マーコが野宿のための設営をしてくれて、しかも食事までも用意してくれるという前提があってのことなのだが。彼女がコミュ障である自分のことを理解しようとしてくれているのも、ちょっと嬉しい。

 もしかすると、仕える魔王も自分と同じコミュ障タイプだから、扱い方がわかってるのかな。ぶっちゃけすげえ楽。魔王城には女性しかいないって言ってたし、あの子もあの子でめっちゃ良い匂いするし、正直魔王軍最高やんけ、などと勇者が思っていると、マーコは再びビュンと風音をたてて戻ってきた。

「ただいまー。今日は活きの良い人間がうろついてたから、人肉ステーキだね」

 彼女の右肩には、すでに皮が剝がれ、血抜きされた大きな肉が載せられていた。

 いや前言撤回だよバカヤロー!!と、勇者は急いでマーコにメッセを送る。

【なななな何してんの!? 人間を殺したってこと!?】

 マーコはそれを確認して、ぷっと噴き出す。

「あっははは、ごめんごめん。んなわけないじゃーん。ただでさえ魔王様からは、人間は絶対に傷つけるなって言われてるのに。冗談だよジョーダン。これはさっき草原で見つけたアバレイノシシのお肉」

 ぷしゅー、と怒りと心配が一斉に抜け、勇者は草むらに腰を落としてしまった。

 ……ぶっちゃけちょっとちびっていた。

「てかね。私からしたら、獣人族とか同族のお肉が出されるってことでしょ? ないないそんなの。気持ち悪すぎだし、私そこまで性格ひん曲がってないし。まぁこの一週間で大体勇者さんの好みもわかってきたから、なるたけ美味しいモノ用意したげるよ」

 説明の後、マーコは人差し指を上げ、魔法か何かで周囲の石と木を呼び寄せて焚火の準備を行う。火炎魔法の一種なのか、ふっとマーコが息を吹くと火はすぐについた。

 勇者の故郷でもあるサイショ大陸全土は、基本的に暖かい気候で草原が広がる地域だが、夜は冷えるし、火があると魔物も寄り付かないので、野宿に焚火は絶対に必要なのだ。

「ほいっとな」

 と、マーコが言うと、彼女の右肩に載せられていた肉が空に浮かび、目にも見えない風切り刃で肉を八等分に。その一切れずつにザクザクと小枝が刺される。肉は豪快に火の上へと置かれ、良い音を奏でながら炙られていく。

 脂がジュウと良い音をたててしたたり、煙が胃を刺激し、焼き肉へのテンションをあげる。美味しそうな匂いが草原中に漂う中、勇者のお腹なかがぐぅと鳴った。

 またありがたいことに、竹の水筒に入った水と、ちょうど良いサイズの石造りの椅子がいつの間にか用意されている。至れり尽くせりだ。

「さて、んじゃ食べよっか。あー人間はもうちょっと焼かないとダメなんだっけ」

 肉がレア焼けしたとみると、マーコは両手で棒をとって豪快にかぶりつく。彼女が獣人族と呼ばれる所以がわかる光景だ。見ていて気持ちが良い。

「ん?」

 炎の対面に居た勇者も肉を取ろうとしたその時、マーコはズボンの後ろポケットの振動に気づく。

「……これ確か、SNSのグループ連絡専用バイブだっけかな」

 物珍しそうにピンク色の可愛らしいスマホを取り出し、マーコはメッセージを確認した。

 それを見た勇者は疑問がわき、

【そういえば、マーコは魔王軍の四天王って話だけど、ほかの三人はどんな人なの?】と、メッセで質問を投げかける。

 グループチャットに目を通しつつ勇者のメッセにも気がついたマーコは「うーん……」と、彼女にしては珍しく顔を歪ゆがませ、難しい表情で言う。

「なんていうか、簡単に説明するのは難しいけども」

「……」

「みんな大体、頭おかしい感じかな」

「ええ……」

 夜空の下で真っ赤に燃える焚火の炎だけが、勇者のドン引き顔を静かに照らしていた。

<第3回に続く>

●作者プロフィール
新田祐助

1984年広島県生まれ。通称・助さん。作家、シナリオライター。
著書に『聖刻 -BEYOND-』など。
捜査一課などを経験した、元刑事らしい。

ツイッター:@singekijyosei
ピクシブ:新田祐助(助)