カリスマホスト・手塚マキ「新宿歌舞伎町のホストクラブで読書会」をやる意味とは

文芸・カルチャー

更新日:2019/6/7

 日本で屈指の歓楽街、新宿歌舞伎町。ネオンが煌々と輝けば、男も女も熱気と共に街にあふれる。

 舞台はホストクラブ。シャンパンタワーよろしく! ドンペリだって開けましょう! ここは誰もが自分を解放できる場所なのだ。

 そんな歌舞伎町ホストクラブで5月下旬、「夜の読書会」が開催された。『裏・読書』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の著者でありカリスマホスト・経営者の手塚マキさんをはじめ、現役ホスト、一般のお客様が参加。

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■『裏・読書』著者でカリスマホスト・経営者の手塚マキさんインタビューはこちら

 一般のお客様は、応募者数70名以上、競争率3倍を超える難関を突破した幸運な20の人たちだ。女性だけでなく男性参加者もちらほら。当日の課題図書は、『裏・読書』でも取り上げられている、村上春樹氏の名作『ノルウェイの森』。

 なぜ敢えてホストクラブで読書会なのか。早速イベントの様子をお伝えしよう。

村上春樹氏『ノルウェイの森』はホストには必要なバイブル

司会(ハフポスト日本版 南麻理江氏):手塚さんの『裏・読書』には「村上春樹さんの『ノルウェイの森』は全てのホストが読むべきバイブルのような本」「主人公のワタナベのような男性でないと歌舞伎町のホストとしては生き残れません」と書いてありますが。

手塚マキ氏(以下、手塚):ワタナベの受け身の姿勢がホストでは大事なんですよ。彼は女性をどうにかコントロールしようとしない。男性側から喋るというより、基本的には女性に話をしてもらって受け答えをしているスタンスですね。

司会:ホストの方って積極性がないとダメなのかと思っていました。

手塚:最初のアプローチはゴリゴリいってもいいし、そこは重要ではないんです。たくさん出会ってたくさん口説くよりも、その後の関係性をどう続けていくかがホストの力量。その為には暑苦しく、これはこうするべきだなんて言うよりは、受け身でいた方が関係性は長く続きますね。

司会:ワタナベって優柔不断じゃない?と思ったのですが。

手塚:いいんじゃないですかね、優柔不断で。僕たちホストは長い関係性を保つ上で、自分の意見なんて持ってちゃいけないんですもの。何考えてるか分からないくらいでいいと思う。

 もちろん永沢みたいな俺が俺が! と強気タイプも一定数います。実際モテるしNo.1になる人もたくさんいますが、作られた自分を演じ続けないといけない。またはナチュラルに元々不良で、常人が思いつかないようなことを考えている人もいて、お客さんもその言動に期待している。でも、そういう子たちってブームがあるんですよ。

「私のこと好き? 春の熊くらいだよ」ってどう思う?

 参加者は5つのグループにわかれてテーブルを囲み、それぞれのテーブルには1名ずつホストが配置。『ノルウェイの森』から抜粋した以下の会話について、グループごとにホストを交えてディスカッション。初めてホストと接する人が大半で、ホストの存在に既にテンションが上がる。

緑 「もっと素敵なこと言って」
ワタナベ 「君が大好きだよ、ミドリ」
緑 「どれくらい好き?」
ワタナベ 「春の熊くらい好きだよ」

 女性陣からはワタナベについて「はっ? 何言ってるの?」「ふざけてるの?」「いけ好かない」といった辛口な意見から「共感! 他にもどんな言葉が出てくるのか聞いてみたい」など好意的な意見も。

 反対に男性陣は「(メンドクサそうな質問には)基本的に聞かないフリをする」「スルー力が大事」としながらも、緑のように天真爛漫な女性に引っ掻き回されてみたい願望を語る発言も。

 さらに、直子をメンドクサイ女とイメージするメンバーが多い中、ミステリアスと変換する意見もあり、同じ登場人物でも受け取り方が違うのも興味深い。

 読書会では『ノルウェイの森』という共通ツールで、初対面同士でも活発に意見が飛び交う。誰しもが経験してきたであろう恋愛トークは話が尽きない。

 筆者が参加したテーブルでは、手塚さんも途中から参加し、なぜか会話が大喜利大会へ。

女性「私のこと好き?」
手塚「好きだよ。これくらい(両手を広げて表す)」
女性「ちょっと短いよね」
手塚「でも地球の大きさをこれくらいで想定すると、結構でかいよ」

 一斉におぉ~! さすが!! と拍手喝采!

 ちなみに別の男性参加者の答えは
「私のこと好き?」
「逆に僕のことどれくらい好き?」と質問返しで‘うざい!’(笑)と周りから突っ込みが入る人や「人間として好き。でももっと知りたい」とホストクラブに通わせよう作戦を試みるホスト、さらに「地球が爆発するくらい好き!」と大きさではなく、破壊力で勝負を挑む発言もあり、大いに盛り上がった。

軽薄さこそ、ホストが健全な状況を保てるもの

司会:ホストもワタナベのように、どこか女性と壁を作るのでしょうか?

手塚:距離感は大事にしていますね。あまり深入りしないしさせないことがホストの正義かなと。深入りしすぎてホストも女性もグチャグチャになっちゃうことも多いんですよ。だからワタナベの軽薄さって、僕たちホストにとっては健全な状況を保つために必要とも思っていますね。

 もちろんホストクラブの常連になってくれたら嬉しいですよ。たくさん来店してたくさんお金を使ってもらわないと実際売れっ子ホストにはなれませんし。でも高額を長期間使い続けることで、ホストとお客様両者が依存し過ぎる関係性に陥りやすいんです。そうならないように適度な距離感を保てるホストが一流ですが、そうなってしまったとしてもホスト側からお客様との距離を上手に離すようにしないといけないと思います。ただ、そこが中々難しくて。女性もお金を使っちゃったから意地になってどうにか男を水揚げしたいって思っちゃう。

 いい思い出として、あんな時もあったなと、卒業させてあげられるのがいいホストですね。基本的にはお客さんに振ってもらう。振らせる。「“私から”振った」っていうのがいいんですよ。

 と、最後はホストのテクニカルな部分についても話を聞きながら、写真撮影を楽しんで幕を閉じた。

取材・文=松永怜 写真=後藤利江