「日本の皇室を尊敬している」世界に誇れる最強の外交資産“皇室”はどのように作られたのか
公開日:2019/6/15
現在、世界には28の君主国がある。その中でも最古の歴史を誇る「皇室」は、他の王室やすでに王室を失ってしまった国々からも深い敬意を向けられている。実際、サウジアラビアの王族は皇室に対し、こんな言葉を寄せている。
“私は通常、外国の大使には会わないが日本は例外である。日本の皇室を尊敬しているからだ。”
皇室はなぜ、これほどまでに世界各国から尊重されているのか。その答えは『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(西川恵/新潮社)で紹介されている。
著者の西川恵氏いわく、皇室が尊敬されるのは、皇室の長い歴史や伝統の蓄積、先の両陛下を中心とした皇族の人間力があるからだという。そこで本書内では日本の歴代天皇・皇后が辿ってきた歴史的エピソードを交えながら皇室が尊敬されている理由を解き明かし、令和という時代にこれまでの歩みがどう活かされていくのかを解説する。
日本の外交に大きく寄与してきた皇室という“外交資産”は新天皇の下で、どう変化していくのだろうか。
■上皇・上皇后が尽力してきた「慰霊の旅」
世界最古の歴史を誇る皇室は、他国の王族や諸外国と親密な関係を築き上げてきた。その背景には、上皇・上皇后両陛下の地道な皇室外交が関係している。本書には、これまでに両陛下が行ってきたさまざまな皇室外交の実例が取り上げられているのが特徴的だ。
中でも、私たちが心に刻んでおかねばならないのが、両陛下が尽力してきた「慰霊の旅」だ。両陛下は即位以来、未曽有の犠牲者を出した被災地や戦場に足を運び、真摯に追悼と慰霊を続けてきた。小笠原諸島の硫黄島やパラオ・ペリリュー島、フィリピンなど国内外問わず、全ての犠牲者に祈りを捧げてきたのだ。
特に上皇・上皇后陛下は、自らが追悼をし、苦難の中で生きてきた人を励ますことで、父である昭和天皇が戦争を止められず、多くの国民に多大な犠牲を強いたことへの責任を果たそうとしてきた。政治的・外交的な打算が一切感じられないその姿は世界中から注目を浴び、日本という国のイメージを変えるきっかけになったのだ。日本で戦争が起きず、諸外国から今のような尊敬の意を向けられているのは両陛下が、温かくも毅然とした対応をし続けてきたからだといえるだろう。
忌まわしい戦争の記憶を消すことはできない。しかし、日本の安全性を訴え、真摯な気持ちを伝えていくことはできる。両陛下の「慰霊の旅」は皇室が尊敬される理由を教えてくれるだけでなく、世界平和を考えるきっかけにもなる。
■新天皇はどんな天皇像を形成していくか?
新天皇が即位し新元号が始まった日本はこの先どのような道を辿り、皇室はどのような存在になっていくのだろう。本書は新天皇の生い立ちを踏まえながら、その問いに答えを出している。西川氏によれば、新天皇が昭和天皇や上皇・上皇后と決定的に違うのは、長い留学経験を積んだという点であるという。
新天皇は皇太子だった1983年から2年4ヶ月もの間、英国のオックスフォード大学で学びながら寮生活を送った。洗濯やアイロンがけを自身で行い、外国人学生と日常的に交流するなど、庶民の暮らしを体験したのだ。こうした経験は新しい天皇像を形成していく上で、強みになるようにも思える。
書中では新天皇の人柄に触れながら「対等性」や「国際感覚」「脱戦後」という3つのキーワードにフォーカスし、新天皇がどのような天皇像を受け継ぎ、新しい天皇像を作っていくのかを考察している。
平成は、痛ましい事件や事故はあったが元号に込められた願いが反映され、戦争が起こらない平和な時代であった。皇位継承者が減っている近年は皇室の危機が叫ばれている。そんな時代だからこそ、私たちはもう一度、皇室が辿ってきた歴史を知る必要がある。
文=古川諭香