首都機能停止!? 今やスタンバイ状態の富士山が噴火するXデーは…
更新日:2020/9/1
日本が世界に誇る名峰「富士山」。ユネスコ世界文化遺産に登録され、国内外から多くの観光客が訪れる日本一高い山だが、かつて大噴火を何度も起こしてきた活火山であることは忘れられがちだ。最後の1707年に発生した「宝永噴火」では、噴火が16日間も断続的に続き、火山灰は遠く房総半島にまで達した。雪のようにも見える白い火山灰は10日以上も降り続き、外は昼間でも薄暗くなったそうだ。
そんな富士山が、宝永噴火から300年以上経った現在、いつ噴火してもおかしくない「スタンバイ状態」に入っているという。そう警鐘を鳴らすのが、本稿で紹介する『富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ(ブルーバックス)』(鎌田浩毅 /講談社)だ。本書を読むと、火山学の第一人者として富士山を長年見続けてきた著者が、なぜ今のタイミングで、富士山の噴火を懸念しているのか理解することができる。
■東日本大震災で富士山の状況が一変
富士山は噴火を繰り返して現在の高さになった「活火山」だが、江戸時代から令和を迎えた現在まで300年以上にわたって平静を保ってきた。しかし鎌田氏によると、2011年の東日本大震災によって、富士山の状況は一変したという。
東日本大震災の4日後には、富士山でも震度6強の直下型地震が発生した。その影響で富士山のマグマだまり直上に、重大な異変が起きた可能性があり、火山学者は全員肝を冷やしたという。鎌田氏は、この時に「もはや富士山はいつ噴火してもおかしくない『スタンバイ状態』に入った」と思ったそうだ。
さらに、火山学者の懸念材料となっているのが、2030年代に起こると予想されている南海トラフ巨大地震だ。実は、宝永噴火の直前にも、南海トラフでマグニチュード9クラスの「宝永地震」が発生している。富士山が噴火したのは、その49日後だった。南海トラフ巨大地震が、300年マグマを貯め続けた富士山噴火の引き金になる可能性も大いにある。
■火山灰により都市機能が停止する
過去の歴史を見ても、富士山が噴火すれば被害が甚大となることは避けられないだろう。本書冒頭には、現代社会で富士山が噴火した場合に想定されるシナリオを「20XX年 富士山噴火」と題してシミュレートしている。
それによると、富士山の麓では、噴石の直撃によって約1万3600人、また「泥流」と呼ばれる土砂の流れで、最大7200人が死傷するという。さらに、富士山から約100km離れた首都圏でも、火山灰が停電やシステム障害を引き起こし、都市機能が停止する。到達した火山灰が送電線に数ミリ積もるだけで、街灯や信号機は止まり、交通が麻痺してしまう。
また、飛行機は、火山灰がエンジンに入り込むと墜落の恐れがあるため、南関東の全空域で飛行停止になり、空港が閉鎖されるなどの被害が発生する。現時点ではあくまでフィクションだが、実際に富士山が噴火すれば起こり得ることとして、火山学者は警戒している。
本書では、海外の噴火被害についても紹介している。噴火した山は、火山灰や溶岩流、噴石などさまざまな噴出物を撒き散らす。アメリカ・ワシントン州にある「セントヘレンズ火山」という活火山は、1980年に123年ぶりの噴火を起こし、火山灰を大量に降らせた。風に乗って火山灰は遠く運ばれ、自動車やエアコンのフィルターを目詰まりさせたり、建物に侵入してコンピュータや精密機器を故障させたりした。また、住民は何日もの間、外出時にマスクを着用しなければならなかったという。本書が描くシミュレーションのような事態が実際に発生しているのだ。
■ハザードマップをチェックして来たる噴火に備える
富士山噴火が、私たちが生きているうちに起こると考えて、地震と同じように対策を考えておくべきだろう。その助けになるのが、「ハザードマップ」だ。富士山用に作成された一般配布用マップには、住民がいつどのように行動をとるべきか書かれている。また、富士山を訪れる人に向けた「観光客用マップ」も用意されているので、富士登山などを計画している人は事前にチェックしておこう。
最後に、鎌田氏は読者をいたずらに不安にさせたいわけではない。「本書をきっかけに、富士山に関する最先端の科学を学び、富士山を正しく恐れる知識を身につけながら、人を惹きつけてやまないその魅力についても再認識していただきたい」と述べている。本稿では富士山の恐ろしい一面を紹介したが、活火山は元来、温泉や湧き水など多くの恵みをもたらしてくれる存在でもある。100以上の活火山がある日本に住む私たちだからこそ、本書を通じて、さまざまな面に目を向けてみてはいかがだろうか。
文=逢沢凪