「ゴミのことを考えていたら新しい生活が見えてきた」『ゴミ清掃員の日常』滝沢秀一さん・友紀さんインタビュー
公開日:2019/6/16
結婚記念日でもある「5月30日=ゴミゼロの日」に、『ゴミ清掃員の日常』を発売した 、お笑いコンビ「マシンガンズ」とゴミ清掃員を兼業する夫・滝沢秀一さんと、初めて漫画を描いたという妻・友紀さん。
「結婚記念日はたまたまなんですけど… 仕組まれてたのかな」と笑う友紀さんと、「結婚前はゴミ清掃員じゃなかったから、運命みたいなものかも」と偶然に驚く秀一さんに、夫婦共同作業から生み出された漫画についてお話を伺いました。
■「ゴミのことを知ってもらいたい」――そのきっかけは?
――昨年、秀一さんが著した 『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景』【レビュー全文はこちら】がベストセラーとなっていますが、なぜ改めて「漫画」に?
滝沢秀一さん(以下、秀一):僕としては書きたいことが書けて、反響も頂いたんですが、活字に抵抗があるという方もいらっしゃったんです。なので「漫画なら、ゴミのことをもっと知ってもらえるはず」と思っていたところ、声をかけていただいて。そのときに誰が絵を描くかという話になったんですが…僕はまったく絵が描けないんですよ、小学校5年生レベルで(笑)。
――それでなぜ友紀さんに?
秀一:よく「チンして食べてね」みたいなメモにネコの絵とかを描いてくれてたので、妻が描いたらいいんじゃないかと思って。でも仕事をしてるし、子育ても忙しいからやらないだろうなと思ってたら、「やる」って言い出して。ビックリしましたね。
滝沢友紀さん(以下、友紀):今思えばなんで二つ返事で、と思います。もし本当に描く大変さをわかっていたら…(笑)。大変なのは想像ついてたんですけど、なぜか口からは「いいよ!」と言ってる自分がいて。好奇心が完全に勝った感じでしたね。
秀一:素人ですからね。漫画を読むのは好きだけど、描いたことないですし。それでどうやって描こうかと担当さんと相談をしたら、iPadをすすめられて。
友紀:それまで触ったこともなくて、担当さんに初めて質問したのが「パスコードって何ですか?」です(笑)。
――え、そこからですか! 趣味で描いたことはあったんですか?
友紀:読むのは子どもの頃からの趣味で、いろんな ジャンルの漫画を読んでいたんですけど、趣味でも描いたことはなくて。それで、漫画ソフトを使って描くことを習ったんですが、いざ始めてみると、読むと描くでは全然違っていて、しまった…と(笑)。
■漫画を共作したら、夫婦関係にも思わぬ変化が…!?
――ネーム(※コマ割りや構図、人物の配置、セリフなどを大まかに描いたもの)までは秀一さん、作画を友紀さんが担当されていますね。
秀一:実はもっと気楽な感じで考えていたんですよ。4コマ漫画をチョロチョロって描いて小遣い稼ぎになればいいなと(笑)。でも担当さんに「それじゃもったいない、1コマ目と2コマ目の間にもっと描ける内容あるでしょう! しかもページ数を稼いだら、それだけ原稿料も入ります!」と言われて、確かにそうかぁなんて言っている内に…夫婦揃って口車に乗せられた、って感じで(笑)。
友紀:(笑) 私も滝沢から「気楽に」と言われていたので、勉強しながらくらいに思っていたのですが、やることがどんどん増えていって、これはマズいぞ、ちゃんとやらねばと思って、仕事をやめて漫画に専念するようになりました。
秀一:僕も漫画なんてまったくやったことなかったので、動きのある絵をどう表現するかが大変で、ネームは苦労しました。すっかり漫画の読み方が変わりましたね。今までは読まないページとかサラッと飛ばすコマもあったけど、「こういうふうに表現するのか!」とよく見るようになりました。
――漫画を描くにあたって、どんなことに気をつけていますか?
秀一:僕は清掃員の仕事を長くやってるんで、清掃員としては当たり前の話を書いてるだけなんですけど、読む 人にとっては驚きがあることがビックリで、そういうネタをひとつひとつやっていく感じですね。右にぶつかり、左にぶつかりしながらネームを描いています。
友紀:まずは清掃車のミニカーを用意してもらって、いろんな角度から見て描くところから始めました。ゴミ袋をどう持って投げているのかという動きは滝沢に実際にやってもらって、写真を撮りました。一番苦労したのは絵が平面に見えてしまうことでしたね。見かねた担当さんが他の漫画家さんに聞いてくれて、「パース(※パースペクティブの略。遠近図法のこと)の切り方が間違ってる」と指摘してくださって。道が奥に行くにつれて狭くなっていって、壁や建物をどう描いていいのかわからなかったんです。あとは見たことがないものや場所は資料を見たり、滝沢に確認して想像力で描いています。
――これまで秀一さんがどんな仕事をされているのか聞いたこと、ありました?
友紀:いえ、夏は熱中症に気をつけてねと言うくらいで(笑)。あ、毛虫に刺されたことは聞きましたね。
秀一:「今日は大変だった」と言っても「あ、そう。お風呂入ってくれば?」くらいで(笑)。でも漫画をやるようになってからは「それはどうなの?」と聞くようになってきました。漫画に対する情熱や思いがあるんだなと感じるし、会話も増えましたね。
友紀:漫画を描き始めるまで仕事の詳しい中身は聞いたことがなかったので、こんなことが日々行われているんだ、もうちょっと労ってあげないとな、と思うようになりました(笑)。
秀一:漫画を描き始めてからは、僕が気を使うようになりました。ケンカして「描かない!」となったら困りますんで、家事を多めにやるようになったり。思った以上に漫画を描くのって時間かかるんですよね。自分の芸能の仕事がないときは、僕が子どもたちの相手をしたりしてますね。
友紀:それは本当にありがたいし、2人の会話はすごく増えました。私としては家が仕事場になったので、切り替えが難しくて、「よしノッてきた!」というときに保育園のお迎えがあったりするんです。あとは滝沢のネームがわかりづらいと「こんなの描けない!」と怒りを直接ぶつけてしまって。他人だったら担当さんを通して「ここがわからないんですが?」と冷静になれるんでしょうけど、目の前にいるから、つい…(笑)。
――夫婦共同作業だと、仕方ないですよね(笑)。そういえば清掃員の仕事を始めた頃、秀一さんがみるみる痩せてビックリされたそうですね。
友紀:それまでは毎日すごく飲んでたしビール腹だったんです。芸人さんの間では「滝沢の前では酒を隠せ」と言われていたくらいで、「終電で帰る」と連絡があっても、これは朝帰りだなと思っていました。
秀一:飲んだら長いんですよ、夜の10時から翌日の昼の12時とかまで。帰りたくなくなっちゃうんです。売れない芸人同士で飲んで、芸人論を語ってた…。今はもうあんまり飲みたいと思わなくなりましたね。なんであんなに飲んでたんだろう…売れなかったし、ストレスあったんでしょうね(笑)。
友紀:以前は、夜はお酒を飲んで、朝なんて食べようともしなかったんですけど、清掃員は業務前のアルコールチェックが必須なので、前の晩に飲まなくなって。しかも食べないと体がもたないから朝からモリモリ食べていくんですけど、どんどん痩せて引き締まっていくんですよ。実はね、ちょっと心配していたんです、飲む量が多かったし、生活もすれ違いだったので。でも最近は飲まなくなって、収入も安定して、家にいるので会話もできるから、よかったです。
■ゴミの捨て方から「その人」が見える。“理想のゴミ”のあり方って?
――ゴミの分別をしないことがどれほど無駄を生んでいるか、清掃員の方がどんな仕事をなさっているかなど、毎日捨てる側の私たちはゴミ問題についてまったく知らないのだなと漫画を読んで痛感しました。
秀一:正直、以前はテレビやラジオ、雑誌なんかに出ることが目的みたいなところもあったんです。売れない芸人だったので(笑)。でも今はこういう機会を利用して、ゴミのことをもっとみんなに知ってもらえたらいいなと思っています。実は埋立地がもう持たないところまで来ているとか、日常的なマイクロプラスチック汚染とか、みんな知らないゴミの問題が山積みなんです。海外での取り組みはとても進んでいるけど、現場から見ると日本は分別なども含めてまだまだだなって感じます。まずは気楽に漫画を読んでもらって、ゴミ問題を考えるきっかけにしてもらえたら。
友紀:滝沢がそうやって勉強している姿を見ていると、私が自分にできることはなんだろうと考えるようになって、食品ロスをなくそうという注意と、どのくらい家に無駄なものがあるのか意識することを始めました 。ゴミを増やさないために、自分で管理できる範囲でだけ、物を持つことを意識していきたいなと思ったんです。その一環として、シュレッダーや生ごみ処理機も購入しました。私は主婦でもあり母でもあるので、子どもたちにこの先どういう形でゴミの問題を伝えていったらいいのかな、というのが課題ですね。
秀一:身近な問題だと、冷蔵庫が大きいと食品ロスが多くなるそうです。まとめ買いがお得、保存が利く と思ってしまうと、油断しちゃ うんでしょうね。だから冷蔵庫の中の食品をこまめに点検すれば、ロスは少なくなる。不思議と、お金持ちの多そうな地域のゴミって、無駄なものを出してないんですよ。そもそも余計なものを買っていないからでしょうね。今後はそういう方向に行くんだろうと思いますね。こうしてゴミの問題を考えていけば、新しい生活スタイルが見えてくるんじゃないかなと感じています。
――では最後に、読者の方々へひと言!
秀一:好感度を上げるために、夫婦手を取り合って描いているというポイントが…って、こういうこと言うと逆に下がるか(笑)。
友紀:あはは(笑)。私は絵で伝わるように、ということを心がけました。きっと今日からタメになるようなことが描いてあるので、まだ拙い絵ですが、皆さんに読んでいただけたらありがたいと思います。
秀一:違う世界へ行くと、いろんな視点、見方がある。僕はずっと芸人世界の考え方が正しいと思っていたけど、清掃員を始めたから会えたいろんな人の生き方や考え方を知って、凝り固まっていた考えがとけた んです。それが「ゴミを通してこの世の中が良くなっていくにはどうしたらいいんだろう」と真剣に考えるきっかけになった。だから、ひとつの世界でダメだったからといって、それで人生の負け組になるわけじゃない。生きていて物事がうまく行かないと悩んでいる人が僕のことを見て力になったり、中には「こいつよりはマシかも」と思ってくれてもいい。そんなひとつの生き方の指針として、この漫画を読んでくれたら一番いいかな。とにかく気楽に読んで、ゴミのことを学んでもらって、いろんな生き方を見てもらえたら!
取材・文=成田全(ナリタタモツ)
撮影=島本絵梨佳