死を意識した犯罪者と妖艶な人妻が、蟹を食べに北海道へ…エロと謎に引き込まれるロード・ストーリー
更新日:2019/7/14
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訳ありな男女が向かうのは北の大地。目的は蟹、それとも…。『雪女と蟹を食う』(Gino0808/講談社)の待望の1巻が発売された。
本作は背徳感漂うエロスと、謎がうずまくロード・ストーリー。描かれるのは自殺を考え強盗を行った犯罪者と、妖艶な人妻との旅である。
「綾女さんエロすぎ…」「出会った美人と旅なんて羨ましい、けどちょっと怖い」「謎が多すぎて続きが気になる」と、話題の作品をレビューしていく。
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■何も持たない男と全てを持っている人妻が出会い、北へ
ある夏の日。主人公である27歳の男は家族、友人、仕事、金、そして居場所もなく自殺を考えるようになっていた。
ふと「蟹を食べたことがない」と思った男は、どうせ死ぬならと、たまたま出会った清楚でセレブな人妻の後を追う。彼女の自宅に押し入り“金”、そして“身体”を要求することに…。
男は気がつくとその女性――雪枝綾女(ゆきえだ・あやめ) とリビングでコーヒーを飲んでいた。しどろもどろになりながら、金が必要な理由を「北海道へ蟹を食べに行くため」と説明すると綾女は言った。
「私も好きですよ」
「…私も食べたいです蟹」
こうして北と偽名を名乗る犯罪者の男と、人妻の不思議な旅が始まった。綾女の運転で2人は一路、北海道へ向かうのだった。
■明らかになる犯罪者の過去、明らかにならない雪女の謎
本作は主人公・北の視点で描かれている。なぜ北が自暴自棄になっているのか、そして少し間の抜けた憎めない性格などが、物語が進むにつれて明らかになっていく。
死のうとしていた男は、蟹を食べたいという欲求に加え、綾女に惹かれることで生への執着をみせるようになる。
謎めいた人妻、綾女の心理はほぼ描かれない。まったく何を考えているかがうかがい知れない彼女は、なぜか北に優しく、細やかに気をつかってくれ、彼の欲望を“全て”叶えてくれる。
だが物語の中で綾女は徐々に訳ありなところをみせてくる。
「幻想ですよ三十路の女に貞操観念なんて…ましてや人妻ですからね」
最初の情事の際、こう言って笑みを浮かべる綾女の顔は、先ほどまでの清楚なそれではなかった。
「もし雪女が現実にいたらきっとこんな顔で笑うのだろう」
この時、北は綾女から色気とは別の、ほの暗い冷たさと、恐怖に近いものを感じるのだ。
その後も夫のことや過去のことなどを語る時、綾女が垣間見せる表情や雰囲気に北は気圧され、そして彼女の妖しい魅力の虜になっていく。
■エロティックでミステリアスな旅の終わりは…
犯罪者のロード・ストーリーと言えば、主人公2人が悲劇的な最期を迎える古典映画『俺たちに明日はない』が想起される。
今のところ北と綾女は旅の途中に犯罪に手を染めているわけではない(不倫旅行ではあるが)。ただ親しみやすい北の性格と心の闇、綾女の優しさと異様な冷たさ、これらのギャップから漠然とした不安を感じるのは私だけだろうか。
2人は無事に北海道にたどりつき、蟹を食べるのか、綾女の真意とは。彼女を“雪女”たらしめるものは何か。北にとっては最後であろう旅の結末とは…。
謎と興味の尽きないこの物語のラスト、旅の終わりが一体どうなるかは、筆者も楽しみに読んでいこうと思う。
この不思議なロード・ストーリーの世界に、どっぷりとひたってみて欲しい。
文=古林恭