松下優也「常識の枠から外れた人生を送ってきた僕に、“それでいいんだ”と言ってくれているような一冊です」

あの人と本の話 and more

公開日:2019/6/19

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、6月7日からはじまる舞台『黒白珠』で主演を務めている松下優也さん。自分の生き方を肯定してくれたという本の話、そして大先輩方に囲まれて挑む舞台の様子についてたっぷりとうかがいました。

松下優也さん
松下優也
まつした・ゆうや●1990年、兵庫県生まれ。2009年に俳優デビュー。16年にNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』に出演し、脚光を浴びる。音楽活動も精力的に行い、ソロアーティスト、X4のメンバーとしても活躍。舞台では『黒執事』シリーズをはじめ、多くのミュージカル作品で主演を務めている。
ヘアメイク:Coomie(B★side) スタイリング:鹿野巧真 衣装協力:ジャケット3万1000円、パンツ2万3000円(NUMBER (N)INE/NUMBER (N)INE TEL03-6416-3503)、Tシャツ1万2000円(OVER THE STRiPES/OVER THE STRiPES HEAD SHOP TEL03-6416-4885)、スニーカー1万9000円(LAD MUSICIAN/LAD MUSICIAN HARAJUKU TEL03-3470-6760)

「本を読むのは好きです。でも、量はあまり多い方ではないと思います」と松下さん。それだけに、今回すすめてくれた『新しい道徳』との出会いは運命的だったのかもしれない。

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「確か、テレビで紹介されていたのを偶然見ていたんじゃなかったかな。内容とタイトルに惹かれて、すぐに買いに行きました」

 コメディアンとして日本のトップに君臨し続け、世界中から映画界の鬼才として知られる北野武。『新しい道徳』はそんな北野さんが現代社会の歪んだ道徳観を独自の視点で考察したエッセイだ。

「武さんしかり、世界のトップに立つ方は周りに流されない強さや常識にとらわれない自分だけの価値観をお持ちですよね。そこにはまったくブレがない。だから、そうした皆さんのインタビューやエッセイを読んでいると純粋に気持ちいいんです。僕自身、自分の夢を叶えるために高校を中退しているので、一般的に見れば常識の枠から外れた人生を送ってきていると思います。でもこの本を読むと、“自分が正しいと思えば、それを貫けばいいんだ”と自分の過去を肯定してもらえているようで安心できる。ですから、今でも生き方に悩むことがあると、手にとって読み返すようにしていますね」

 また、“こうじゃないといけない”という固定観念をなくすのは、役者の仕事をする上でも大事なことだと松下さんは言う。

「舞台や映画、それにドラマなど、僕たちが生み出す作品はエンターテインメントと呼ばれますが、必ずしも正しいことだけをテーマにしているわけではありません。中には、ダークヒーローとなって社会の負の部分を暴くことで、そこから新しい何かを気づかせることだってある。そうしたときに、凝り固まった道徳観を持っていると役者として自分の表現の幅を狭めてしまうことになるんですよね。その意味でも、フラットにいろんな考えや意見を自分の中に取り込む許容性を意識して持とうと常に思っているんです」

 さて、そんな松下さんが主演を務める舞台『黒白珠』が7日から公演。

「稽古からずっと刺激的な毎日を送ってきています。共演者の壮ちゃん(平間壮一)はプライベートでも仲のいい親友。今回は双子の役なので2人の距離感が重要になってくるんですが、最初から互いのことを知り尽くした環境のもとで稽古に入ることができたので、とてもやりやすかったですね。また、壮ちゃんと(植本)純米さん以外の皆さんとは初共演になります。父親役の風間杜夫さんや母親役の高橋惠子さんをはじめ、そうそうたるメンバーが揃っていますので、壮ちゃんがいてくれて本当によかったなと安心しました(笑)。僕ら2人で太刀打ちできるような先輩方ではありませんが、自分たちが持つ全ての力を出し切って、毎日本番に臨みたいです」

 最後に見どころをうかがった。

「純粋に楽しんでいただきたいので細かいことは言えませんが、誰もが圧倒される展開が待ち受けているということだけはお伝えしておきます(笑)。父親との確執、兄弟間の嫉妬、記憶のない母親への想いなど、人生の機微がたくさん詰まった作品になっていますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいですね」

(取材・文:倉田モトキ 写真:山口宏之)

 

舞台『黒白珠』

舞台『黒白珠』

脚本:青木 豪 演出:河原雅彦 出演:松下優也、平間壮一、村井國夫、高橋惠子、風間杜夫ほか 会場:Bunkamuraシアターコクーン 6月7日(金)〜23日(日)他各地 
●勇(松下)は、職を転々とし、父(風間)を心配させていたが、双子の弟・光(平間)は、大学に行き父の期待を受けていた。勇はある時から自分の出自に疑念を抱き始める。一方、光は昔消息を絶った実母・純子(高橋)と再会し……。