ワケあり年上熟女と貧しい青年の官能浪漫。年の差を超え貪るように求めあう不器用な男女の愛の行方はーー?
公開日:2019/6/22
限りある人生の中で私たちは、死ぬほど「欲しい」と思える相手に何度出逢えるだろうか。熟女と青年のエロティックな浪漫が描かれた『ふたりのおうち』(艶々/少年画報社)は、誰かを大切に愛せたあの頃の自分を思い起こさせてくれる作品だ。
工場で働くカズヤは実家に仕送りをしながら、ギリギリで孤独な生活を送っていた。独身で趣味もないカズヤにとって、変わり映えしない日々は味気なく単調なもの。そんな中でカズヤの心が唯一躍るのが、会社近くのお店で唄子を見かけた時。赤の他人同士だった2人はひょんなことから言葉を交わすように。一回りも年が離れた相手に惹かれていく自分に戸惑いつつ、唄子もいつしかカズヤに好意を抱くようになる。
だが、唄子の心にも仄暗い陰が…。5年前に婚約者を亡くした彼女は、以来、婚約者の弟・京介の愛人として生きてきた。そんな自分を「カズヤに釣り合わない」と感じるようになり、プライドの高い京介にカズヤが苦しめられないよう、自らの手で恋にピリオドを打とうとする。
だが、カズヤは唄子の拒絶を受け入れず、一緒に生きる道を選ぶ。
ワケありな2人が繰り広げる大人の恋愛は官能的で美しい。エロティックなベッドシーンに溢れている、唄子とカズヤの心の陰りも味わい深い。不器用な男女の愛は、一体どんな結末を迎えるのだろうか。
■最終巻で見つけた「ふたりのおうち」とは?
最終巻となる4巻は、京介との直接対決から幕を開ける。ついにカズヤは、唄子が死別した婚約者にかわって呉服店を継いだ京介の庇護を受けながら愛人生活を続けてきたという事実を知る。
すべてをさらけ出した唄子は、カズヤの優しさを再確認。京介との関係を終わらせるべく、勇気を振りしぼり別れを切り出す。強い決意を胸にした唄子が突き付けた、終止符の言葉。そこには、時の流れで歪んでしまった悲しい愛の形が巧みに表されている。
唄子に別れを告げられた京介はカズヤのもとへ向かい、“男同士の話し合い”を試みる。唄子を奪われた悲しみと怒りから、拳を振り上げる京介。だが、そんな姿を見たカズヤは予想外の行動に出るのだ。
なお、本作では回を増すごとに心を許し合ってきた唄子とカズヤの関係にも変化が。残酷なことに、互いのことを想うあまり2人の心の距離は離れていってしまう。一筋縄ではいかない孤独な大人同士の恋は、ラスト1ページまで目が離せないほどスリリング。人生に迷い、絶望してきた唄子とカズヤが辿りついた「ふたりのおうち」とは、果たしてどんな形だったのだろうか。
明日が見えなくても永遠という保証がなくても、1秒でも長くそばにいたい。そう思える心を、私たち大人は遥か昔に置いてきてしまったような気がする。たった一言で心が苦しくなったりドキドキが止まらなくなったりする幸福感は、特別な恋愛でしか味わえない。そんなあの頃の甘酸っぱい気持ちを、本作は思い起こさせてくれるのだ。
文=古川諭香