街ですれ違う男子、カフェで斜め前に座っている男子の集団、同じ会社で働く名も知らぬ男性社員……。袖振り合うも多生の縁とはいえ、接点ゼロの男子の部屋を拝見するのは、かなりハードルが高い行為ですよね。でも、今どきの男子がどんな部屋に住んでいるのか見てみたい！　という密かな願望を抱いている人もいるはず。多分。

　そんな望みを叶えてくれるのが、先日発売された『男子部屋の記録』（玄光社）です。その名の通り、男子が生活する“男子部屋”が収められた写真集。気鋭の写真家・小野啓氏が3年にわたって撮影した、男性90人の男子部屋が登場します。

　各ページには、小野氏による住人たちへのインタビューも掲載されています。彼らが部屋に込めた想いや、歴史など写真に写らないバックグラウンドも知ることができ、男子部屋を深く楽しめます。

　これは、特撮オタクとしても有名なベーシスト、大内ライダーさんの男子部屋。「ゴジラ」「ウルトラマン」「仮面ライダー」「スーパー戦隊」など、さまざまなおもちゃが所狭しと並んでいます。コレクションを飾るために広い部屋を借り、いまも着々とおもちゃが増えているとのこと。印象的だったのは「物があればあるほど、人は豊かになるという考えだから、『断捨離』には異議を唱えたい」とのコメントです。部屋の在り方ひとつで、住む人の人生哲学が垣間見えます。

　とても整理整頓が行き届いている左ページの部屋は、ブータンからの留学生・YESHIさんが2人の友人と住んでいる男子部屋。壁には仏画が飾られ、どこか異国情緒が漂います。YESHIさんの部屋とは対照的なのが右ページにある、YouTuber・千葉大樹さんと海沼蒼太さんほか１名の男子部屋です。3人とも服が好きで「外に同じ服を二度と着ていかない」という強いポリシーがあり、それぞれの服をすべて合わせると1500着を超えるとのこと。たしかに、よく見ると大量の服が散乱しています。このように、対照的な部屋が並ぶページ構成のおもしろさも、本書の魅力のひとつ。

　そのほかにも、自宅と仕事場を兼用し、部屋中に生地やトルソーが置かれたファッションデザイナー・Hachiさんの部屋や、駆け出しの俳優・高橋司さんが勉強のために録りためたDVDが乱雑に置かれた部屋など、それぞれの仕事・生活が密接に関わる男子部屋が多く登場します。なかでも、室内でヤギを飼っている衝撃の男子部屋は必見です。

　ヤギがいるほど特徴的な部屋もあれば、生活感丸出しの部屋や日本最古の寮こと、京都大学の吉田寮の一室も登場し、十人十色の男子部屋が堪能できます。スタイリッシュな家具が置かれたモデルルームのような部屋ではなく、男子部屋のリアルに迫った、唯一無二の一冊。

文＝真島加代（清談社）