鈴木 杏「KERAさんの戯曲は、台詞の奥深さに圧倒されながらも、演じていると不思議な物語の中を旅しているような心地いい感覚になるんです」
公開日:2019/7/7
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台『フローズン・ビーチ』に出演する鈴木杏さん。おすすめ本の『そうだ 魔法使いになろう!』の魅力を語りつつ、舞台への意気込みをたっぷり話してくれました。
鈴木さんが、「人によっては好みが分かれる本だと思うんですが……」と話しながらすすめてくれたのは、吉本ばななと催眠療法家・大野百合子の対談をまとめた『そうだ 魔法使いになろう!』。
「スピリチュアルな内容なので敬遠される方も多いと思うんです。序盤ではいきなり、お2人が前世でどんな生活をしていたかということがずっと語られていますし。吉本ばななさん自身もまえがきで、“突き抜けた内容の対談”“こんな変わった本”って言っているぐらい(笑)。でも、ただの妄想だとか夢物語とは言い切れないところもあって。それに、こうしていろんなものの見方ができれば、人生がより豊かになるんだろうなと思いました」
目に見えない力を信じるかどうかは、人それぞれだ。が、信じてポジティブになることで、生活に潤いができるのは確か。何より、この本の中で対談をしている2人の会話はとても微笑ましく、幸せに満ちあふれているため、読んでいるこちらもつい笑顔になってしまう。
「なかには、“『祈り』と『呪い』の感情は似ている”とか、なるほど!と感じることもたくさん書かれてあるんです。また、三脈(左右の首の頸動脈と右手首の動脈の3カ所)が乱れると体に良くないことが起きるというのは古くから言われていることらしくて。そうした先人の知恵も学べますし、私もときどき実践しています(笑)」
鈴木さんが“生きることの意味”や生命の本質について書かれた本を読むようになったのは、30歳を過ぎてからだという。普段は小説なども移動中によく読むそうだが、役者の仕事に集中している時は一旦お休み。特に、「KERAさんの作品に携わっている時は、ほかの活字を読んでいる余裕がなくなる」と笑う。
「KERAさんの舞台には何度か出させていただいていますが、どれも物語が壮大で。会話劇だとしても、言葉に込められた深みや広がりにいつも圧倒されます。特に今回出演させていただく『フローズン・ビーチ』は個人的にも大好きな作品で、ある意味、伝説的と言っていいほどの傑作。多くのファンがいらっしゃいますし、初演・再演で演じられたオリジナルキャストの方々も圧倒的な表現力をお持ちで、尊敬する先輩方ばかりでしたので、今はものすごくプレッシャーを感じています」
『フローズン・ビーチ』は劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチが20年前に書いた戯曲で、岸田國士戯曲賞を受賞した作品でもある。このたび、KERAが残した数々の傑作の中から選りすぐりの作品を才気あふれる演出家たちが新たに作り上げる「KERA CROSSシリーズ」が立ち上がり、本作はその記念すべき第一弾となる。
「前回の舞台を拝見した時は“巻き込まれた感”がありました。4人の女優による5人の女の会話劇なのですが、自分も彼女たちと同じ時空に居合わせているような感覚になったんです。その衝撃はいまでも忘れられない。その時はまさか自分が同じ舞台に挑むことになるとは夢にも思わなくて。ただ、矛盾しているようですが、KERAさんの作品は、戯曲の奥深さに圧倒されながらも、実際に演じていると不思議な物語の中を旅しているような感覚になってとても心地いいんです。またあの世界に入り込めると思うと、すごく楽しみです」
また、今回演出を手がける鈴木裕美と久々に舞台をともにするのも、大きな楽しみのひとつだという。
「裕美さんとは2011年の『トップ・ガールズ』以来になるので8年ぶりです。私の初舞台が『奇跡の人』(03年)で、その演出が裕美さんでした。10代の頃から私を見てくださっている方で、演劇の面白さを最初に教えてくださったのも裕美さん。きっと、あの最初の出会いがなければ、ここまで演劇の道に進んでいなかったと思います。それに、私の全部を見られているから、いまさらかっこつけようもないし、かしこまりようもない(笑)。そうした方と一緒にお芝居を作れるというのはとても幸せだなって思います」
いまは、とにかく早く稽古をしたくて仕方がない様子。
「共演者の皆さんとは共演するのは初めての方ばかり。ですので、今からワクワクしています。そして早く、あの壮大なKERAさんの戯曲に立ち向かう大変さを皆さんと共有したいです(笑)」
(取材・文:倉田モトキ 写真:かくたみほ)
舞台 KERA CROSS第一弾『フローズン・ビーチ』
脚本:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:鈴木裕美 出演:鈴木 杏、ブルゾンちえみ、花乃まりあ、シルビア・グラブ 7月31日(水)~8月11日(日)シアタークリエほか
●カリブ海の近くにある別荘に、持ち主であり、資産家の双子の娘・愛と萌を訪ねて、旧友の千津とその友人・市子がやってきた。愛と千津が不穏な空気を醸し出す中、愛が毛嫌いする継母・咲恵まで現れたことで、部屋の雰囲気はさらに悪化していく。