「今月のプラチナ本」は、原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』
更新日:2019/7/10
あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『美しき愚かものたちのタブロー』
●あらすじ●
日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことがない時代、実業家の松方幸次郎は私財を投げうって、ロンドンとパリで絵画を買い集めた。「日本に本格的な美術館を創りたい」という夢だけのために――。美術に魅せられた熱き男たちの生き様と、国立西洋美術館の誕生にまつわる秘話を描いた、日本と西洋アートの奇跡の巡りあいの物語。
はらだ・まは●1962年、東京都生まれ。関西学院大学および早稲田大学卒業。森美術館設立準備室勤務やニューヨーク近代美術館への派遣を経て、2006年、日本ラブストーリー大賞を受賞した『カフーを待ちわびて』で作家デビュー。12年、『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞を受賞。そのほかの著書に『本日は、お日柄もよく』『暗幕のゲルニカ』『たゆたえども沈まず』など多数。
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- 原田マハ
文藝春秋 1650円(税別)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
数多の色を重ねた、絵画のごとき小説
国立西洋美術館が開かれたのは、ほんの60年前。だがその開館に奔走した人々のことを私たちは知らない。「ほんものの絵を見たことがない日本の若者たちのために、ほんものの絵が見られる美術館を創る」―物語の主軸は松方幸次郎だが、松方以上に田代雄一、吉田茂、日置釭三郎ら「周囲の人々」を描くことによって、著者は歴史を浮き彫りにする。独りのヒーローではなく、多くの人の志と行動を。まるで印象派の絵画のように、さまざまな色を一筆一筆重ねて、大きな絵を描き出すのだ。
関口靖彦 本誌編集長。あって当たり前の物も、かつてはなかった。有形の物はもちろん、物の見方や言葉も。なかった物を作る、人の意志の力を思い知る一冊。
情熱を存分に味わえる
国立西洋美術館の誕生が、こんなにドラマティックだったなんて。この大事業に携わった人たちの情熱を描けるのは原田マハさんしかいない!と思わせる圧巻の物語だった。そして松方幸次郎、日置釭三郎といった物語の主要人物たちが、美術のプロではない、というところも、絵画は敷居が高いと常々思っている私のような読者も夢中にさせるのではないかと思う。個人的に、松方があるポスターと出会うシーンがとても好きだ。あんな運命の出会いに気づける自分でいられるといい。
鎌野静華 作家と旅特集。海外ドラマ特集以来の個人的趣味に偏った特集ができで楽しかったです。旅慣れた人の話はやっぱり面白い! 身軽な旅って憧れます。
才能と呼ばれるものの正体
絵のことを、初めてタブローと呼びたくなった。「絵のことはわからん」と嘯く稀代の実業家・松方のコレクターぶりが、絵画と外交史、双方を結びつけてゆくからだ。一枚のタブローは見る者を虜にし、結果として運命を左右することさえある。その計り知れない重さが、史実を基に綴られてゆく。だからこそ日本に西洋美術館を作ろうとする彼らの荒い息遣いが、ありありと伝わってくる。日本からパリまで鉄道で二週間を要した時代に集められた松方コレクションは、今もそこにあり続ける。
川戸崇央 今月のトロイカ取材で訪れた千葉県のラーメン店をきっかけに、麺食ブームが再燃。その分運動量を増やしているんですが、さぁどうなりますか!
なんて幸福をくれる小説なんだろう!
タイトルどおりタブローにまつわる美しき愚かものたちの人生、そして輝く青春の物語。田代がタブローを求めパリを駆け巡る場面は、街の空気、音楽とともに彼の希望が溢れ、夢をみているような高揚感。また松方幸次郎、スケールが違う。モネの絵に対し「君の言う通りだ、あの色はおかしい」「あの絵は、傑作だ。色がどうとか、理屈じゃない」。人は「この人についていきたい」と思う人に出会えることがある。そしてそれはとても幸せなのだ。スタオベして拍手を贈りたいくらいの圧巻作。
村井有紀子 女性マンガ特集担当。『凪のお暇』ドラマ楽しみ! 来月号は星野源さん表紙&エッセイ「いのちの車窓から」も。誌面写真も新たに撮りました!
美術館ってなんのためにあるんだろ?
美術館に行っても何がすごいのかよくわからん。そんな人は本書を読むと、なんだか許されるような気がするかもしれない。なにせ巨大美術館を作るなんてプロジェクトを始めた松方幸次郎当人が、「わしは絵がわからん」と言っているのだ。ではなぜ日本に美術館ができて、どんな価値を認められ、今日も守られているのか。そんなことを考えながら読むうちに「自分にとって美術はどんな価値があるか」という問いに辿りつく。アートと自分の関係性を編み直す物語、「わからん」人こそ是非!
西條弓子 東京都現代美術館と写真美術館が、三度の飯より好き(?)なのです。都現美の3年ぶりのリニューアルオープンが嬉しすぎる……!!
ほんものの絵を見られる奇跡
アートに魅せられた人々を書いてきた原田さんが今回物語の中心に据えたのは、芸術にまるで興味のないビジネスマンだ。戦前の大実業家・松方幸次郎は、ヨーロッパで数千点もの作品を買い集める。アートコレクターと聞くと、芸術が好きな人か、資産的・社会的価値を求める人を想像するけれど、彼の目的は日本に美術館を創って世界に通用する若者を育てたい、という壮大なものだった。その夢に巻き込まれていく人々の情熱と、アートへの愛と敬意にあふれた物語だ。
三村遼子 国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」も、それぞれの作品の運命に思いを馳せたくなる充実した展覧会でした。
圧倒的知識と愛は、人を行動へ導く
本作はタブロー(絵画)にとりつかれてしまった男たちの数奇な運命を描く大河小説。読み手にその場に立ち会っていると思わせる説得力と引き込み力は、マハ作品の中でも随一。そこに著者本人のタブローと松方コレクションへの愛と尊敬が詰め込まれているのだから、胸を打たないわけがない。美術館へ行かねばという気持ちが満ちてくる。著者も含めた「美しき愚かものたち」に作中の一言と一緒に拍手を送りたい。「ありがとう。―Bon travail!(いい仕事でした)」
有田奈央 7月26日に尾崎世界観最新エッセイ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』が発売! 丸裸レベルで「あれこれ」書いていただきました。ぜひ書店にて。
頭ではなく、心で動くということ
読み終わってしばらく経った今も、胸がドキドキしている。松方幸次郎の潔さと情熱が、かっこよすぎる……! わからないものはわからない、でも、好きなものは好き。そんなふうに心に突き動かされて行動する彼の姿は、やがて周りの人の心も動かし、巻き込み、夢を現実に変えていく。愚かでもなんでもいいから、自分の心に素直になって生きてみようと、勇気をもらえる小説だった。そして、読後はカバーを外して表紙のイラストをぜひ。思わずこみ上げてくるものがあります!
井口和香 新卒としての配属から丸1年、単行本の部署へ異動に。素敵な方々と素敵な作品にたくさん出会えた、幸せな1年間でした。ありがとうございました!
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