約3000年前、富士山は複数の峰を持っていた!? 富士山の現在の美しさを地形の歴史から考える
公開日:2019/7/4
火山列島である日本には見応えある山が数多く存在するが、その中でも富士山は別格だ。美しい国日本を象徴するもののひとつ、富士山の登山シーズンは例年7月から。登る人もふもとから見上げる人も、飛行機から見下ろす人も、新幹線から眺める人も、よく知っているようで実は知らない富士山への理解をより深めることで、かの山の魅力がさらに増すかもしれない。
『富士山はどうしてそこにあるのか 地形から見る日本列島史(NHK出版新書)』(山崎晴雄/NHK出版)では、活断層の専門家が日本各地の特異な地形の成り立ちを語っている。富士山についても環境変化の歴史、地形の形成過程といったアカデミックな視点から、その唯一性について述べている。
世界文化遺産でもある富士山が美しいのは、誰もが知るところだ。美しいのにはワケがある。富士山は、他の山々が持ちあわせない3つの特徴を有している。
1つ目は、その山容。富士山は、広くなだらかな裾野を四方に拡げた美しい円錐状である。2つ目は、独立峰であること。周囲のどこからでも、美しい景色を眺めることができる。3つ目は、規模。標高3776メートルと日本の最高峰であり、かつ体積227立方キロメートルといわれる最大の火山体である。さらに、周辺の富士五湖が富士山の美しさを際立たせている。
ここまでは、大半の人が知っているか、すこし調べればわかることだが、本書は専門的見地から、3つの特徴を同時に有す理由まで深掘りしている。日本が地震大国であるのは、いくつかのプレートの衝突部だからだ。本書によると、富士山の近く、伊豆の北側では駿河トラフと相模トラフを繋ぐプレート沈み込み境界があり、それは陸上を通って相模湾(相模トラフ)から足柄平野、丹沢山地と箱根火山の間を経て、富士山の下、さらには駿河湾(駿河トラフ)に続いていると見ている(※この説明は文章ではイメージしにくいかもしれないが、本書では図でも示してあり、わかりやすい)。
つまり、どういうことか。富士山の下には駿河トラフから北に延びるプレート沈み込み境界が存在している。すなわち、富士山はプレート収束帯の沈降域に噴出したため、付近には高い山地がない。こういう理由で、前述の山容と独立峰が同居している。ちなみに、昔の人は東西南北どの方向からも同じように長い裾野を拡げた美しい景色が眺められることを「八面玲瓏(はちめんれいろう)の富士の山」と表現し、褒めそやした。
富士山は活火山である。南東斜面にある有名な宝永火口は、今からそう過去ではない1707年(宝永4年)の大噴火でできた。これは、富士山において過去1万年の中で最大の噴火だったようだ。これ以前の大きな富士噴火は1000年頃の平安時代であり、700年ぶりの大噴火だったと見られている。
このように噴火を繰り返しているということは、周期ごとに噴出物が堆積して、今の富士山の姿がある、ということだ。本書の説明をかなり端折るが、富士山の堆積物から歴史をたどると、なんと同山は2900年前までは円錐状の独立峰ではなく、複数の峰を持つツインピークスだったと予測される。つまり、地球規模の時間でみると、富士山が現在のように3つの特徴をあわせ持つ美しい姿でいるのは、極めて短い期間らしいのだ。
本書は、今の富士山の姿を奇跡的だとして、世界にふたつとない「不二の山」と称している。人間の感覚では気付けないが、刻々と変わる生きた富士山にロマンを感じながら観賞する、あるいは体感してはいかがだろうか。
文=ルートつつみ