愛してくれる人との行為中に愛する人の名前を…! 女の子同士の丁寧で真面目な恋物語
更新日:2019/7/5
愛する人と、愛してくれる人――どちらとつき合うのがより幸せ? 恋する女子にとっては、永遠の命題だろう。ところがこの問いかけは、ひとつの選択肢を無視してこそ成り立つものだ。愛する人といたいという人も、愛してほしいという人も、どちらも満足できる選択肢が本当はある。それは、「愛し愛されることができる人と恋をすること」。ただ、この選択肢が除外されている理由も、理解できなくはないのだ。愛し愛されて生きることなんて、現実にはなかなか叶わないものだから。
『キミ恋リミット』(百乃モト/一迅社)の主人公・園(その)も、そんな理想と現実を切り分けざるをえなかった女の子のひとりだ。
園の好きな人は、美人でクール、頭もよくてしっかり者で、すべてが完璧な女の子・里深(さとみ)。その里深が東京の大学に行くと知り、高校3年生の冬、園は決死の覚悟で告白をした。里ちゃんが東京の大学に行くのなら、あたしも東京に行く。里ちゃんと離れるなんて耐えられない、ずっとずっと好きだった。しかし里深の反応は、相変わらずクールそのものだ。園の告白を「だから?」と流し、抱きしめてキスをしたいという園の望みを「ないでしょ」とあっさり否定。そして春、里深が東京に旅立つと、園の恋は終わってしまった。まるで何事もなかったかのように。
けれど人間、ずっとその場にとどまっているわけにもいかない。園は、失恋のショックからあてもなく上京し、偶然にも里深と同じ大学に通う紘子に拾われた。高校の終わりに別れて以来、里深には一度も連絡できていない。でももう、それも関係のないことだ。女同士でも、ちゃんと恋愛をしてくれる人を見つけたのだから――園は紘子に抱かれながら、そんなことを考える。そして、やってしまった。絶頂を迎えるその瞬間、忘れられない片想いの相手、里深の名前を口にしてしまったのだ。
紘子に部屋を放り出された園は、頼れる場所もお金もなく、橋の下にダンボールハウスを作って夜を明かす。思えば紘子は、傷ついた園を優しく甘やかしてくれていた。紘子を好きだったのは本当だ、それなのに彼女を傷つけてしまった。だが、紘子に謝ろうと彼女の通う学校を訪ねた園は、そこでいちばん会ってはいけない人物に会ってしまった。大学生になり、ますます綺麗になった里深だ。振られても、恋人を作っても、ホームレス生活をしても忘れられなかった恋心が、あふれてしまう。
再会した里深は、園が落ち着くまで家に置いてくれるというが、甘えているだけでは紘子とつき合っていたときと同じだ。園は、里深に対するよこしまな気持ちを隠しながら、彼女の負担にならないようにとアルバイトに奮闘するが、一方で、同じ大学に通う里深と紘子には意外なつながりがあることがわかり…?
大人になってからの恋愛は、隠し事ができないものだなと思う。肌を合わせれば、自分の熱量が相手に伝わってしまうからだ。けれど、それゆえ、自分よりも相手のほうが、心のうちをわかっているということもあるのかもしれない。理解し、理解されるからこそ、愛し合える。身も心も裸にならなくてはいけないから、ありのままを見せられる相手のことを、大切に思うのだ。
性別を超え、恋をすることの醍醐味を、もっともピュアなかたちで味わわせてくれる本作。恋をしたことがある人ならば、きっと登場人物の誰かに共感できる、丁寧で真面目で、ちょっとエッチな恋物語だ。
文=三田ゆき