就活に失敗した彼が起業を決意…ビジネス本かと思ったら「ボーイ・ミーツ・ガール」な話だった…!
公開日:2019/7/8
「しょぼい喫茶店」をご存じだろうか。ある若者が作った小さなお店である。その立ち上げからの軌跡が書籍化された。それが『しょぼい喫茶店の本』(池田達也/百万年書房)である。
本作には著者が起業を志し、喫茶店を軌道に乗せるまでが書かれている。その口コミをみると「エモい!」「泣ける…!」「行ってみたい」と絶賛されている。ただお店を作っただけで何がどうすごいのか、レビューしていこう。
■ネットに「やりたい」と書いたらお金が貰えてお店ができた
本書の内容をかいつまんで書くと
「就職できないと悩んで起業しようと思ったら、お金をくれる人が現れて、一緒に働いてくれる女性から連絡が来て、喫茶店ができて、何もかもうまくいった…」
まるでラノベのタイトルのようだが、これが現実なのだからおもしろい。しかも起業を志してからうまくいくまで、1年ほどの出来事なのである。
著者の池田氏は、自分は真面目に働き高いお金を稼ぎたい、とは考えられない若者だった。会社勤めは向かないと感じ、就職活動も芳しくなかった。大学4年になり、彼はネットで「えらいてんちょう」と名乗る人の記事を読む。そこには少ない資金で起業し、コストを抑えて店舗を経営する方法が書かれていた。池田氏は勇気づけられ、喫茶店をやろうと決意する。
なおこの「えらいてんちょう」のメソッドである「しょぼい起業」は、そのノウハウをまとめた書籍になっている。
→ 記事はこちら https://develop.ddnavi.com/review/518908/a/
年が明けた2018年1月、池田氏はTwitterやブログで、自分のような「しょぼい」人たちが楽に生きていける拠り所になるような場所、「しょぼい喫茶店」を作りたいと発信する。
すると「えらいてんちょう」と繋がり、さらに彼の友人に繋がり、初期費用の100万円を出資してもらえることになった。現実感がないかもしれないが、これも事実である。
池田氏は「えもいてんちょう」と名乗り、大学の卒業直前の2018年3月、東京の新井薬師に「しょぼい喫茶店」をオープン。ただスタートは好調だったが、徐々に客足は減っていった。心が折れそうになりながらも、池田氏は一緒に働く仲間とともに、ささやかだができることをやっていった。
そんな中で常連さんたちが「しょぼい喫茶店」をコミュニティとして楽しんでいることに気づく。
これは池田氏が開店前に考えていた「お店を拠り所にしたい」ということが成功していることを意味していた。
「えもいてんちょう」は、大きな家や高い車が買えるほど儲かってはいないかもしれない。しかし彼は求めていた空間を手に入れたのだ。2019年7月現在「しょぼい喫茶店」は今も新井薬師で誰かを待っている。
■喫茶店作りで出逢う男女の物語
初めて起業し、店舗経営をした若者が、短期間でお店を軌道に乗せていることは確かにすごい。ただこの本が「エモい」理由はもうひとつある。
池田氏がネットで「しょぼい喫茶店」を作ると宣言した2018年1月、働かせてほしいと連絡してきた女性がいた。このおりんさんと名乗る女性は、激務で仕事を辞め、出身地で療養中だという。ゆるく繋がれる場所の運営に興味をもっていた彼女と池田氏は店のオープンから共にがんばっていった。
生きづらさを抱えた男性と、心身を壊していた女性が出逢い、仕事を創り、共に働き、そして…。7割は池田氏の独白で語られる本文のラストで唐突にそれは語られる。
そして最後、おりんさんが書く「長めのあとがき」で、本書はボーイ・ミーツ・ガールな物語(ノンフィクションだが)であったことがわかる。
個人的にはこの構成に、そして彼女の心の描写にかなりぐっときた。皆さんもぜひ私が感じた「エモさ」を体感してほしい。
■しょぼい人たちのためにしょぼくない大人になるエモさ
池田氏は「自分のようなしょぼい人たちの拠り所を作るため」と結果的に超人的に奮闘。さまざまな人と会い、その言葉や行動から学び、まったくしょぼくない立派な大人に成長していく。
本書は、凡庸だけど「多数派のようにやれない」と感じる方に読んでほしい「エモい」1冊である。
なお喫茶店経営の実用的、実務的なノウハウもまとめられており、実際に喫茶店経営をやってみたい方にもおすすめだ。
文=古林恭