好きなのに、想いを告げることが許されない。孤独な神様とともに生きる女子大生の、切なすぎる恋模様
公開日:2019/7/12
叶わぬ恋の相手に想いを寄せ続けるほど、難しいことはない。早く終わらせてさっさと次に進もうとするのが普通だろう。しかし彼女は、想い人に寄り添うことを選んだ。自分の行ない次第で「永遠の別れ」につながるとわかっていたとしても。
『私の神様』(夢野つくし/スクウェア・エニックス)は、孤独に生きる小説家と好きな人の側にいたいと願う女性の一途さと覚悟を描いた物語だ。
本作の主人公のひとり、山城かずさは18歳の女子大生だ。彼女は大学進学と同時に、小説家として人間界で生きる「神様」と一緒に暮らし始め、彼の身の回りの世話役を買って出た。神様は、ひとつのことに集中すると周りが見えなくなるタイプで、一度小説に集中しすぎて熱中症で倒れてしまったことがあるほどだ。そんな神様をかずさは自分のことのように心配する。その情景はまるで恋人同士だが、かずさは神様に想いのすべてを打ち明けることはしない。彼女にかけられた「呪い」が神様と距離を縮めることを許さないのだ。
一方、神様にも「人間界で永遠に生き続けなければいけない」という呪いがかけられている。神様は昔、恋に落ちた人間の命を救うために世の理を破った。呪いはその罰である。人間界で永久に生き続けることはすなわち、関わった人の「死」を見送り続けなければならないということ。神様は次の言葉をそっとつぶやく。
“いつもおぬしらのほうから、おらんくなる”
作中の神様は、どことなく人間と深く関わることを拒んでいるように見える。お墓参りにはひとりで行こうとしたり、かずさには「女子大生なんだから自分のことなんか気にせずもっと遊べ」と言ってみたり。神様が冷たく見えてしまうのは、彼がそれだけ「死」を見送り孤独と寂しさを経験してきたから。そして今度はかずさの「死」を見送ることになるかもしれない、そんな思いがあるからだろう。読み進めていくほど、神様が積み重ねてきた孤独や寂しさに胸が締め付けられる。
それでもかずさは、神様の孤独を埋めようとする。まるで罪悪感でも背負っているかのようだ。彼女が背負っているものがなにか、彼女にはどんな呪いがかけられているのか、なぜ神様との距離を縮めることができないのかは、ぜひ本書を手にして読んでいただきたい。
本作で描かれている一部は、リアルな世界でもあり得ることだ。SNSの普及もあり人との出会いや関係は広がった。しかし同時に一つひとつが軽薄になったように思えてしまう。そして軽薄な関係は、人をいとも簡単に孤独にすることができる。
人は孤独には耐えられない。だからこそ人は寄り添える誰かを探し、寄り添ってくれる人ができたとき幸せをかみしめられるのだ。かずさと神様が過ごす日々から、好きな人が側にいることがこんなにも幸せなのだということを感じ取っていただきたい。
文=トヤカン