AVと現実を混同していない? 男性のゆがんだセックス観を打ち砕く『セックスのほんとう』とは
更新日:2019/7/19
突然ですが、あなたは、セックスのやり方を学んだことはありますか?
こう問いかけられて、YESと答えられる人がどれくらいいるだろうか。自分自身の過去を思い返してみても、男女の体の違いや、子どもがどのようにして生まれるかといった「性教育」を受けたことはあるが、具体的なセックスのやり方なんて教わってこなかった。
では、ぼくらはなにでセックスを学んだのか。それはAVだ。それは、思春期特有の爆発しそうな性欲を発散するためだったかもしれない。誰も「勉強」のために観たりはしないだろう。しかし、結果的に、それをお手本とするようになる。真剣にセックスを学ぶ機会がない分、画面の向こう側で繰り広げられる営みが刷り込まれてしまうのも仕方がないことだ。
ただし、これが男女間におけるセックスのすれ違いの引き金になっている。そう指摘するのは、女性向けAV男優として活躍する一徹さんだ。彼はこれまでに3千本ものAVに出演してきた。いまでは「エロメン」として知られ、AV以外のフィールドでも活躍している。そんな一徹さんが、「セックスのほんとうについて考える本を作れないだろうか?」という想いで、このたび『セックスのほんとう』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した。
一徹さんによれば、「AVはファンタジー」だという。つまり、作り物。だからこそ、AVには過剰な演出もあれば、現実には難しいようなプレイもある。それはすべて、男性視聴者の欲望を満たすためのものだ。そこを勘違いし、現実世界でのセックスに持ち込もうとすれば、もちろん、相手の女性を傷つけることにもつながる。一徹さんは、そんな不幸をなくすために筆を執った。
中イキできる女性は少数派
たとえば、女性がオーガズムに達するということ。AVでは必ずといっていいほど、女性がオーガズムに達するシーンが映し出される。なかには女性が潮を吹くシーンもある。けれど、実際に挿入した状態で女性が中イキできることは、めったにない。もともと中イキできる女性は、全体の3割以下なんだとか。つまり、女性はイカなくても普通。それを自分自身のテクニック不足だとか、女性が不感症なのではないかなどと思い悩むのは、ファンタジーと現実をごっちゃにしてしまっていると言えるだろう。
フェラを本当に好んで行う女性は少ない
また、これも同様によく見られる、フェラチオシーン。AVでは女優さんがうっとりした表情で男性器を口に含むが、一徹さんによると、フェラを本当に好んで行う女性は少ないという。どちらかというと、「好きな人が喜んでくれるなら」という気持ちでしてくれる女性が多いというのだ。これを勘違いするのはご法度。仮に、「舐めるの好きなんでしょ?」と言おうものなら、女性側から引かれてしまっても仕方がない。
本書を読んでいて印象的だったのは、限りなく女性側に寄り添おうとする一徹さんのやさしい目線だ。AVの現場で大勢の女性と触れ合ってきたからこそ言えることがある。そして、それがセックスに悩む男女を救うことにつながる。本書の一文一文からは、そんな覚悟にも似た一徹さんの想いが伝わってくる。
本来、セックスとは愛情を確かめ合う尊い行為だと思う。それが、男性側の思い込みによってゆがんでしまい、女性を傷つけるだけの行為になっているのだとしたら、なんて哀しいことだろう。一徹さんがしたためた本書は、そんなゆがんだセックス観を正してくれる、これまでになかった「セックスを考えるための手引き」である。
文=五十嵐 大