男はいらない。必要なのは精子だけ――。38歳美女と18歳童貞高校生、嘘つきなふたりのラブサスペンス!
公開日:2019/7/14
恋愛初期のことを思い返すと、顔が真っ赤になるほど恥ずかしい。世界がとてもキラキラして見え、ありふれた恋愛ドラマやラブソングに共感して涙を流す。相手の一挙一動が気になるわりには、全てを勝手な自己都合で解釈する。特に初恋となると、その舞い上がりは異常で、相手のことを冷静に見極める視点などないに等しい。そうして気がついた頃には、それなりに大変な目に遭っていた――。…なんて経験は、筆者だけではないことを切に祈りたいところである。
さおとめやぎ氏の『あいだにはたち』(講談社)は、純朴な男子高校生が、ミステリアスな38歳の美女に出会い、すごい勢いで人生のレールを踏み外す様子が描かれているマンガだ。
主人公は、偏差値の高い優秀な高校に通う18歳の男子高校生・高江玲於奈(れおな)。大学受験を控えた彼は、ある日、夜の公園で、失恋して泣きながらお酒を飲んでいる「ミサ」と名乗る美女に出会う。心配して話を聞く玲於奈だが、彼女の年齢が38歳と聞き、自分とのあいだに20歳もの年齢差があることに驚く。一目惚れした彼は、ミサを繋ぎ止めたい一心で、25歳の大学院生である兄の名前を騙ってしまう。そうして次にまた再会した時、ある目的を隠し持ったミサから「付き合うとなると年齢差が気になるからセフレになって」と頼まれるのだが――!?
実はミサは、本気で子供がほしい、しかもできるだけ優秀な遺伝子がほしいと、何人もの男性と面接して、優秀な精子提供者を探している女性だった。また、家族をつくるのに男は必要としておらず、精子だけを求めていた。アラフォーの彼女に悩んでいる時間はない。ミサは、大学院で基礎物理の研究に励んでいるという玲於奈の嘘を信じ、ターゲットを彼へと定め、毎月の排卵日前後にホテルへと誘う。
女性慣れしていない童貞の玲於奈は、毎月大体同じ日に誘われる理由に気づくこともなく、ミサの重みや温度やしめつけ、強烈な快感に溺れ、勉強そっちのけで彼女を求めてしまうのだ…!
本書は、高校生と気づかずに精子を盗もうとする38歳の美女と、彼女に愛されたいあまり、年齢を偽り、セフレ関係を続ける男子高校生のラブサスペンスがテンポ良く描かれている。
意外にも、ふたりに共通しているのは「絶対にひとりになりたくない」という孤独を恐れる気持ちだ。玲於奈は、男性が多い環境で研究に没頭するあまり、彼女がおらず、「ひとりで死ぬ確率がかなり高い」と嘆く兄の言葉を聞き、モテない自分も同じだと、不安を拭い去ることができなくなっていた。ミサも、子供をつくることで、本気で孤独を回避しようとしているフシがある。
物語にはふたりの他にも、ミサの元同棲相手や、ミサを怪しく思い、正体を探る玲於奈の兄も登場して、事態はますますややこしくなる。それぞれの目的を持ち、嘘をつきながら何度も身体を重ねる艶かしい描写に興奮するのはもちろん、純粋な気持ちと、残酷な嘘が交じりあったふたりの関係に、少しばかり胸が締め付けられるマンガだ。果たしてミサは目的を悟られることなく妊娠することができるのか。ぜひ読んでみてほしい。
文=さゆ