ミーちゃん、起きたらハンターギルドに居ました。(2)/『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』⑤

文芸・カルチャー

更新日:2019/7/29

神様の眷属ミーちゃんを助け、転生することになった青年ネロ。彼に懐いたミーちゃんと一緒に、異世界での生活を頑張ります! 鑑定スキルと料理の腕でギルド職人をしたり、商人になったり…異世界のんびりモフモフ生活!

『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記1』(にゃんたろう:著、岩崎美奈子:イラスト/KADOKAWA)

 宿に戻ると丁度、五の鐘が鳴ったところだった。なんか一日過ぎるのが早く感じるなぁ。日本にいた時は一日がものすごく長く感じていたのに、気分的なものなのだろうな。一生懸命に生きようとすると、時間は早く進むように感じるのだろう。それだけ日本にいる時は、自堕落な生活をしていたとも言えるね……。

 部屋に荷物を置いて、ミーちゃんの首に青いリボンを巻いてあげる。良く似合っているよ。

 笑顔のミーちゃんを連れて食堂に行くと、ミーちゃんを見た女将さんが、

「あらま。ミーちゃんおめかしして、益々別嬪さんになったわね」

「み〜」

「お皿持って来るから、そこに座って待ってな」

 女将さんはミーちゃんしか見えてないのだろうか? 俺の食事もちゃんと出てくるよね? 信じていますよ。女将さん!

 ミーちゃんとじゃれ合っていると、女将さんが料理を運んで来た。忘れられてなかったよ。

 ミーちゃんの猫缶を召喚して、皿に盛る。ミネラルウォーターもね。

「頂きます」

「み〜」

 メニューは魚のムニエル、ソースはケチャップを使った物がかかっている。酸味が強くしてあり、淡白な魚に良く合っている。黒パンはスライスされ、ニンニク油を塗って軽くあぶったようだ。ガーリックトーストってとこかな、これも美味しい。さすが本職だけあって、既に使いこなしている感じだね。食生活が豊かになることは大変嬉しいことだよ。

 ごちそうさまを言って、女将さんが皿を下げに来た時に相談してみた。

「そうかい、仕事決まったんだ。良かったじゃないか」

「ですが、時間が食事時間に重なっていまして……」

「そのくらいの時間なら問題ないよ。終わったら食べればいいさ。うちは夜は酒場だからね。何の問題もないよ」

「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けします」

「なに言ってんだい。お互い様だよ。またなんか良いレシピがあったら教えてくれればいいさ」

「わかりました。考えておきますね」

 もう一つ聞いておきたいことがあった。

「そういえば、女将さんたちってどうやって朝起きてるんですか?」

「はぁ? そんなの慣れに決まってるさ」

 ですよねー。こればかりはどうしようもないか……。

「ネロは起きる自信がないんだね」

「はい。五の鐘の時にはハンターギルドに居ないといけないので、遅くとも四の鐘と半の時には起きないと駄目でしょうね」

「うーん。そうなると目覚ましが必要だね。残念だけどうちにはないね。取り敢えず、明日はあたしが起こしてやるよ。明日以降は、道具屋に行って目覚ましを買って来るしかないねぇ」

「目覚まし、あるんですか?」

「そりゃあるさ。クアルトの町くらいになれば売っていて当然さ。ちょっと値は張るがね」

 そうなんだ……あるんだ。明日、必ず買いに行こう。でも、高くて買えなかったりして……。

 女将さんに明日の朝のことをお願いして部屋に戻った。

 寝る用意を済ませ、猫用品スキルの実験を始める。猫缶を二個出してみる。うわぁー、だりぃー。今度はミネラルウォーターを出してみた。だいぶ、だるいです。更にもう一本出すと、目を開けているのも辛い。

 実験終了。そのままベッドに倒れ込み寝る。ミーちゃん、お休み〜。

「み〜」

 

 朝、部屋をノックされ目が覚めた。

「時間だよ。ネロ」

「おはようございます。もう、大丈夫です。ふあぁ〜」

「二度寝するんじゃないよ!」

 正直、二度寝したい。そんな欲求を断ち切って着替え、顔を洗って歯も磨き髪を整え準備万端。バッグを持って寝ているミーちゃんを抱っこして宿を出る。

 外は朝もやに包まれひんやりとしている。今の季節はいつなんだろう? 春っぽくすごしやすい。町はまだ薄暗いにもかかわらず。通りのお店の人たちは活動し始めている。みんな早起きだね。

 ギルドに着き建物の裏に回り中に入ると、ギルドの職員さんたちは既に仕事を始めている。

 ハンターギルドは朝六時から夜の九時までやっていて、職員さんは基本二交替制勤務になっていると聞いている。なので、今居る職員さんは早番の職員さんだ。

「おはようございます。本日からお世話になりますネロです。よろしくお願いします」

「朝からうるせぇ! 坊主。頭に響くだろが……」

 ガイスさんだ。うわぁ酒臭い、これは二日酔いに間違いない。統括主任がこれで良いのか? まさかこれがデフォルト!? それに挨拶は基本だよ。

「誰か、水くれ……」

 誰も反応しない……。自分の仕事に集中しているのか、はたまた無視してるだけなのか判断に苦しむ状況だ。仕方ない、昨日召喚したミネラルウォーターをあげよう。

「どうぞ」

「なんだこりゃ? 坊主?」

 そうか、この世界にペットボトルなんてあるわけないものね。蓋を開けて渡してあげる。

「変わった水筒だな。まあいい。ありがたく頂くぜ」

 ゴクゴクと一気飲み。よほど、喉が渇いていたのだろうけど豪快すぎるよ。口から漏れてるし……。

「おい坊主! てめぇ、俺に何飲ませやがった!」

 ギルド内にガイスさんの声が響き渡り、全員がこちらを凝視している。ミーちゃん用のミネラルウォーターとは言えず……。

「た、ただの水ですよ?」

「てめえ! これがただの水なわけあるかぁ!」

 バッグからもう一本出して、鑑定してみた。初級万能薬兼初級回復薬と出ていた……。何やってんの神様! って怒っているわけじゃないですよ。逆にありがとうございます! ミーちゃんだけじゃなく人間にも効く物のようです。ミーちゃんが元気なのはこれのお陰なんだね。これは最高の贈り物ですよ!

「間違って、初級万能薬渡しちゃいました。てへぺろ♪」

「ば、万能薬だとぉ! 嘘だろ……あれ全部が初級万能薬だったっていうのかよ……少なくとも普通の十本分はあったぞ……俺は金貨十枚分も飲んじまったのかぁ……ハハハ……」

 ガイスさんはその場に崩れ去り、天井を見て笑っている。何が可笑しいのだろうか?

 それにしても、これ一本で金貨十枚ってどんだけだよ。正直、身の危険を感じる。絶対に召喚で出せることは言わないでおこう。下手したら権力者に捕まって飼い殺しにされる恐れがある。そんなの嫌だ。これは秘密だ。絶対。

 そっとペットボトルをバッグにしまう。誰も見てないよねって、全員こっちを見てるし……。空きペットボトルも回収しておく。まあ、これは誤魔化せそうだけどね。

「この忙しい時に何やってるのよ! 仕事しなさい! ガイスさんも何やってるんですか!」

「パミル。悪りぃ、今日、俺帰るわ……」

「ちょ、ちょっと、何言ってんですか!」

 ガイスさんは魂が抜けたかのような様子で、フラフラとギルドの建物から出て行ってしまった。俺のせいじゃないよね?

「何があったの。ネロ君?」

「さ、さぁ?」

「まあいいわ。ガイスさん居ない方が捗るしね。ネロ君、こっち来て」

 パミルさんについて行き、ギルド内で一番目立つ掲示板の裏にあたる部屋に連れてこられた。表の掲示板は天井近くにあるが、表の掲示板と同じ物が目の高さにある。

「今日からここでおこなう作業が、ネロ君が専属になるからちゃんと覚えてね」

 この掲示板はハンターさんたちへの依頼を載せるものだ。掲示板は三つに分かれていて、モンスターの討伐依頼、討伐以外の依頼、昨日までの未受理の依頼に分かれている。

 最初にすることが、昨日の依頼で受けられていないものを、未受理の依頼側に書き移すこと。この掲示板、とても便利で掲示板同士が繋がっていて、裏で書いたものが表に映る仕組みになっている。なんてハイテク……。

 ミーちゃんを横のテーブルの上にタオルを敷いて寝かせる。ガイスさんの怒鳴り声を聞いても起きないミーちゃんって、大物ですなぁ。まったく起きる様子がなく、スピスピ寝息をたてているね。

 準備が整ったので掲示板に専用のペンで依頼内容、依頼期間、報酬、備考、を書き移す。移し終わると、パミルさんが一枚の紙を渡してくる。表裏にびっしりと依頼が書かれていた。どうやら、これを書かなければいけないらしい。開業時間の六時までに書き終えるだろうか? 急がないと。

「書きながら聞いてね。朝の仕事は、まずこれね。その後はここに居て、受付から入る情報通りに、掲示板にチェックを入れるの。この箱から受付の声が聞こえるからちゃんと聞いていてね」

 掲示板の横にスピーカーのような物が設置されている。試しにパミルさんが受付の場所に行って実践してくれた。

『聞こえるかしら?』

 どうやって答えればいいかわからなかったので、表まで走って行って手を振って合図する。

「アハハ……ゴメンゴメン。使い方教えてなかったわね」

 スピーカーの横のボタンを押している間、相手に声が聞こえる仕組みだ。双方向ではないらしい。まんまトランシーバーだ。神様はこの世界を未熟な世界と言っていたけど、意外と科学技術は高いのじゃないのだろうか?

「ネロ君、聞いてる? ここが光ってる時は、誰かが喋ってる時だからね」

「大丈夫です。これと同じような物、使ったことがありますから」

「へぇー、そうなんだ。これってハンターギルドの専売特許なのよ? よほどのことがないと売られない物なんだけどなぁ?」

「アハハ……たまたまですよ」

 そして、仕事を始めて何とか六時前に書き終えることが出来た。ふぅー。

 ミーちゃんも起きたようで、いつの間にか知らない場所に居ることに不思議そうに、首を傾げて俺を見つめている。

「み〜?」

「おはよう。ここはハンターギルドだよ」

「み〜」

 女将さんから借りてきた木製の皿に、例のミネラルウォーターを注いであげる。美味しそうにチロチロ飲んでいる。これでミーちゃんの健康面は完璧だ。ついで俺も飲んでおこう。おぉー、なんかスッキリした。体から何か悪いものが抜けた感じがするし、眠気も吹っ飛んだ。なにより美味い! 水がこんなに美味いと感じたのは初めてだよ。

 ひと息ついたところでパミルさんから声がかかる。

「ネロ君。準備はいい。ハンターギルドが開くわよ!」

「はい!」

 こうして、俺のハンターギルドでの仕事が始まるのであった。

「み〜」

続きは本書でお楽しみください。

著者プロフィール:にゃんたろう 『神猫ミーちゃんと猫用品召喚師の異世界奮闘記』で、2018年カクヨムで実施された「第3回カクヨムWeb小説コンテスト」異世界ファンタジー部門特別賞を受賞