ヤクザの仕事は「究極のボランティア」? 元山口組関係者の対談で明かされるヤクザの内側
公開日:2019/7/24
元号が令和となってから、くしくも芸能界と反社会的勢力の関係性がこれでもかというほどに報道で取り上げられている昨今。私たちも、自分のあずかり知らぬところで、ふと街中ですれ違っていたり、どこかで肩を隣り合わせているのだろうかという思いも巡らせてしまう。
反社会的勢力と一言でいってもさまざまに分類されているが、暴力団はその筆頭に上げられる組織だろう。なかでも、兵庫県に本部を置く“山口組”は日本最大規模といわれる勢力のひとつだ。
その内幕に迫った書籍『山口組の「光と影」』(沖田臥竜、山之内幸夫/サイゾー)は、元・山口組二次団体最高幹部(沖田氏)と元山口組顧問弁護士(山之内氏)の対談をベースに、知られざる“ヤクザ”の世界へスポットを当てる1冊である。
■条例制定などにより「シノギのパイ」小さくなっている
本書で、かつては「本当に律儀なくらいヤクザであることを、これまで世間に対して示してきました」と述べるのは、過去には組員として働き、現在は“カタギ”として執筆活動を続ける沖田氏だ。対談の中で、ヤクザの現状を俯瞰する。
「次第に私生活において、代紋(ヤクザ組織が代々受け継いでいる紋章)を名乗れば不利益しかないような状況になっていき、ヤクザであることをひた隠して契約でも結ぼうものなら、逮捕される時代になってしまった。現役の頃、どないせいいうねんって、何度も思いました」
その契機のひとつにあるのは、2011年を境に全国の各自治体が相次いで制定し始めた暴力団排除条例だ。加えて、弁護士の立場から山口組をみてきたという山之内氏は、バブル期の資金源であったという“地上げ”を引き合いに出し「そうした需要も景気が良くならないから、どんどんなくなっている」と指摘する。
「民間の経済分野に暴力の手を突っ込んでいくシノギ(ヤクザが行う経済活動のこと)がない。そうなると、本当にシノギは純然たる違法収入しかないわけですが、今はみかじめと言われる守料を取るのも非常にやりにくくなってきてますからね。食う手段がない。博打で食っていけるわけでもないですし、ヤクザが食っていけるだけのシノギのパイが小さくなってます」
ヤクザといえど、その世界に足を踏み込んだら“仕事”として、食いぶちを稼がなければならないということか。いずれにせよ、現在非常に生きづらくなっているということがわかる。
■ヤクザは「究極のボランティア精神」を持った“仕事”?
そもそもの話として、ヤクザとはどんな“仕事”なのだろうか。沖田氏は、自身の経験を振り返り「職業ではなく生き方と言うけど、本当に精神論だと思います」と述べる。
「極論を言えば、究極のボランティア精神に行き着くと思うんです。私自身、一般の社会に戻り、カタギの暮らしに馴染めば馴染むほど、それを感じました。給料をくれなければ、逆に毎月お金だってかかるわけじゃないですか。挙句に懲役に行くことも常々視野に入れとかないとならない。もう今では、ようせんなと」
続けて、かつては「親分の求心力。もっと言えば受けた義理や恩」があったからこそ、ヤクザを続けられていたと語る沖田氏。一方、ごく近い立場からその世界を俯瞰してきた山之内氏は、暴力団に所属せず犯罪に勤しむ“半グレ”集団とヤクザの違いを指摘する。
「ヤクザは上納金がきついし、規律もうるさく窮屈、その上シノギもできん。ヤクザとつなぎをつけながら、一定の距離を保ち、半グレに所属している方が良いんでしょうね。薬物でも特殊詐欺でもなんでもやれますもんね」
これに対して「オレはヤクザなんだと自分自身に常に言い聞かせて暮らしているヤクザとは、意識も違いますしね」と返す沖田氏。反社会勢力の一部として一緒くたに解釈されることもあるが、かつての日本にみられた“任侠道”のように、それぞれの動機や活動は異なるようだ。
一般人からすれば、うかがい知る機会がないヤクザの世界。山口組の実態や動向を実際に目にしてきた2人の対談からは、暴力団を取り巻く「現在の姿」がにじんでくるはずだ。
文=青山悠