ついに4.7億元突破!『千と千尋の神隠し』が中国で大ヒットした理由
更新日:2019/7/31
本国・日本での公開から18年の時を経て、中国本土で6月21日(金)より初上映された映画『千と千尋の神隠し』が3週間で興行収入4.72億元(約74億2000万円)を突破し、大ヒット街道を驀進している。
7月12日(金)には、7月20日(土)を予定していた最終上映日が1カ月後の8月20日(火)に延期されることが正式に発表され、どこまで5億元に接近するかに注目が集まっている。
4億元突破の朗報が届いた7月4日(木)には、スタジオジブリの代表取締役である鈴木敏夫氏が中国語の手書きメッセージを寄せ、中国のジブリファンを歓喜させた。中国のネットでは、「この夏、何ものにも代え難い思い出を作ってくれてありがとう!」という感謝の声や「ジブリ作品を(スクリーンで)全部見たい!期待しています」と、次なる作品の公開を心待ちにする声が相次いでいる。
そもそも中国のジブリファンが18年もおあずけを食らった背景には、中国の外国映画規制がある。2002年より施行された「映画管理条例」第44条では「上映企業(映画館、シネコンなど)で年間に上映する国産映画の時間は、年間に上映する映画の総合時間の3分の2を下回ってはならない」と規定しており、外国映画にとって中国市場は狭き門だった。中でも、難解で暗喩的な表現の多い作品は敬遠される傾向にあり、さらには政治的な問題も色濃く反映されるお国柄のため、日本映画が全く上映されない時期もあった。だが近年、全国区でのシネコンの激増に伴い、外国映画にも門戸は開かれ、特に中国でも人気の高い日本のアニメが続々と公開されるに至ったのだ。
昨年12月、満を持して中国本土で初上映された『となりのトトロ』は最終興行収入1.73億元(約28億円)と、まずまずの成績を収めたが、識者たちは『千と千尋の神隠し』の興行収入は『となりのトトロ』を上回ると早くも予想していた。
では、『千と千尋の神隠し』が爆発的にヒットした理由とは何か。
一つは、批評家をはじめ、ネットユーザーたちの呼びかけが効を奏したといえる。海賊版が当然の如く流通し、無料の動画サイトが多数存在する中国において、『千と千尋の神隠し』を見ていないというアニメファンはまずいない。だが、多くの批評家が「文字などでは伝えられない形容しがたいこの映画は、絶対にスクリーンで見るべきだ!」とファン層に訴え、大画面で見ることで新たな発見があると断言しているのだ。かつて宮崎駿が「私の作品は大スクリーンで見るためのものだ」とコメントしたことも併せて紹介している。
また、暴力シーンなど過激な描写もなく、安心して子供と一緒に見れる映画としても紹介されている。ちょうど公開が夏休みと重なったこともあり、親子で、はたまた三代揃って映画館に足を運ぶファミリーも少なくないという。子供は子供の視点で楽しめる映画であると同時に、批評家が「大人こそが見るべき大人の映画」と評していることも影響していると思われる。
国産アニメ『西遊記之大聖帰来(Monkey King: Hero is Back)』(2015年)などを手がけた1975年生まれの映画監督・アニメーター、ティエン・シャオポン(田暁鵬)は、「『千と千尋の神隠し』を見るたびに到底足元にも及ばないと感じ、自分がより良い作品を創作するための励みにもなる」とコメントしている。
なお、中国本土における日本アニメの歴代興行成績のトップに君臨するのは、2016年の『君の名は。』の5.76億元(約90億6800万円)、次いで2015年の『STAND BY ME ドラえもん』の5.3億元(約83億4400万円)だ。現時点で『千と千尋の神隠し』は歴代3位に付けている。18年も “神隠し”にあっていた旧作がこれだけの大ヒットを生むとは、誰もが想像していなかったに違いない。
文=角山奈保子