彼氏持ちの友人が女子同士でキス!? 萌えと謎が錯綜する百合SF『私以外人類全員百合』
更新日:2019/7/28
百合作品を読んでいると、たとえば舞台設定が女子校や女子寮であったり、女の子だけが働くバイト先であったり、物語に女の子しか出てこないような作品というのはいくらでもある。
しかし、地球上に「女の子しかいない」となると話は別である。
2018年、新連載「私以外人類全員百合」が開始されると『少年エース』1月号にて発表された。著者は、『まんがタイムきららMAX』で「魔法少女のカレイなる余生」を連載していた晴瀬ひろき先生。
新連載「私以外人類全員百合」始まります!
Comic Walker他Webにて年内開始予定です。本日発売の少年エース1月号にあらすじなども少し載っているので、ぜひご覧ください。
晴瀬ひろき先生(@haruse)2018年11月26日Twitterより
そして、2019年6月25日に、待望のコミックス1巻『私以外人類全員百合』(KADOKAWA)が発売された。
主人公は、「ふつうに生きて」「ふつうに恋愛し」「ふつうに結婚して」「ふつうに家庭を築いて」「ふつうに死ぬ」といった「ふつう」をこよなく愛する、ごくふつうの女子高生・潤野茉莉花。朝、彼女はいつも通り、学校に行くために家を出る。しかし、そんな彼女の道中、突然目の前に現れたのは、同じ学校に通う友人同士がキスをしている瞬間だった。
茉莉花は彼女たちに「何してんの」と聞くと、平然と「何ってちゅーだけど」と答える。「君らそういう関係だったの? 女子同士で…」と聞くと、「女子同士でって当たり前のことじゃない」と返される。だんだんと脳内に疑問符が増えていく茉莉花にとどめを刺すかのように、彼女たちは「そういや昔は男ってのがいたんだよね」「なんか歴史で習ったね」と言ってくる始末。
冷静にまわりを見回すと、他の生徒たちの多くも女子同士で友達とは思えないほどの親密さを見せながら歩いていたりする。学校に着くと、共学であるはずの教室に女子しかいない。「普通じゃない」とパニックになった茉莉花は、ちょっと頭を冷やすために保健室に行き、横になる。
朝起きたら、自分が知っている「ふつう」がまるで変わってしまっていた。おかしいと思う彼女を、まわりの女子は「おかしい」と思う。ひとり思い悩む彼女の目の前に現れたのは、隣のクラスで学年一の秀才・香散見りり。彼女のもつ本に「平行世界」という言葉を発見した茉莉花は、事情を話し、相談に乗ってもらうのだった。
最初は信じてもらえなかったものの、たまたまもっていた元の世界の歴史の教科書を見せると、少し様子が変わる。ここ100年ほどの歴史は、元の世界と今の世界ではまるで違うものになっていた。そして、元の世界に戻りたがる茉莉花に「信じた気になって協力してあげます」と言うりり。喜ぶ茉莉花に、しかし彼女はひとつの条件を出した。
それは、りりと「付き合う」ということ。学年一の秀才美人と付き合うことになった茉莉花は、戸惑いながらも、条件を飲む。それはあくまで、他の人たちに怪しまれないための偽装であったからだ。
そして、ふたりの偽装カップルによる、元の世界に戻るための謎解きが始まる。
ふたつの世界に共通することと違うこと、今いる世界にも茉莉花は確かにずっと存在していたこと、そして、平行世界にいた茉莉花もやはり何かの謎を解くために行動していたこと…単なるトンデモ話ではなく、少しずつ糸が解かれていくストーリーに胸が高鳴る。
同時に、美人でクールで頭がいいりりと、ふつうを愛していた茉莉花、そのふたりの関係性も次第に深まっていく。ふつうの恋愛を愛していた茉莉花は、しかしそこにも何か謎を抱えているような物言いをする。
謎が謎を呼ぶ、SFとしてのストーリー展開。知れば知るほど愛おしくなるりりの人柄。異様に「ふつう」を愛する茉莉花の心模様。そんな、スリルと萌えが交錯する、密度の高い百合SFだ。
文=園田菜々