今もそこにある危機!? 昭和・平成のオカルトの源流を探って、ブームや事件の裏側を徹底解説!
公開日:2019/8/8
「オカルト」という言葉は便利だ。常識では説明できない現象や存在といった、多様なモノを一言で云い表わせられる。その不思議さにワクワクしたり恐怖を感じたりと、惹きつけられる魅力がある。しかしオカルトは、ときとして現実の危険を伴う。例えば、「EM菌」の問題がそうだ。土壌改良のために開発されたとするEM菌は、現在のところ科学的な有効性を証明しえていない。にもかかわらず、信奉者が地方議員に働きかけて地域の河川にEM菌をバラ撒いたり、学校のプールにEM菌を培養したと称する液体を保護者が子供たちと流し込んだりという事例が増え、一部の医師は感染症の危険性を指摘している。
そんなオカルトについて、集大成とも云える研究本が発行された。『昭和・平成オカルト研究読本』(ASIOS/サイゾー)がそれで、編著したASIOSは「超常現象を懐疑的に調査する団体」だ。令和の時代を迎え、出版社から昭和と平成のオカルトをテーマにした本の企画が持ち込まれたものの、先行する同様のテーマで刊行された本の多くが「イカレつつも古き良き時代」として過去を懐かしむ内容だったため、当初は断ろうと思ったと、同団体代表の本城達也氏は述べている。しかし、企画の趣旨が「しっかり考察を深めた本を出せないか」というものだと分かり、引き受けることにしたそうだ。
世紀末が迫った平成時代にはオカルトブームが盛り上がったが、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起きると一気に冷めることとなった。そのオウム真理教の信者となり、幾つもの凶悪事件を実行したのは多感な子供の頃、昭和時代に起きたオカルトブームに魅了された者たちだった。五島勉氏が執筆した、ノストラダムスが記したとされる『大予言』は続刊のたびに執筆時の世界情勢や世相を反映していたことから、読者の受け止め方が多様化し二つの元号にまたがって読み継がれたようだ。そして、オウム真理教が他のオカルト団体と大きく異なるのは、超能力や予言といった神秘的な力を崇めておきながら、科学の一分野である「正しい化学の知識」に基づいて化学兵器が完成し、現実の脅威へと変貌したことにある。
本書によれば、科学でないものには「ニセ科学」「未科学」「間違った科学」「非科学」があるという。それぞれ、ニセ科学は「科学のように見せかけているが科学でないもの」、未科学は「科学的検討が十分でないため真偽を判定することができないもの」、間違った科学は「研究された結果正しくないと判定されたもの」、非科学は「基本的に客観的事実との整合性を要求されない主張のこと」(信仰、道徳など)と解説されている。昭和のニセ科学の事件としては、「水をガソリンに変える」という詐欺を思いついた人物が公開実験を行ない、のちに連合司令長官になる山本五十六中将が立ち会ったそうだ。さらに、「アルミニウムで鉄をつくる」技術を開発したと称する別の人物が現れ、衆議院で東条英機首相は「これで次の大戦をまかなうべき鉄には不自由しない」と演説し、議員たちが喝采したのだとか。ヒトラーがオカルトに傾倒していたことを考えると、オカルトと政治家が結びつくのは実に怖い。
冒頭のEM菌については、非科学に分類されるようだ。というのもEM菌を開発したと称する人物は、その効果を「口蹄疫や、インフルエンザ、放射能汚染も解決することができるし、末期ガンやC型肝炎も改善し、コンクリートの耐用年数も上げる」としており、さらにはペットボトルに入れて吊るしておけば「結界を張ることができる」とも主張している荒唐無稽ぶり。EM菌の本来の開発目的も、明治から昭和にかけて終末論を掲げ活動していた「大本教」の幹部であった岡田茂吉なる人物が創設した「世界救世教」の理想を実現するため。同様に終末論を主張していたオウム真理教が、その活動においてヨガ教室を装っていたように、EM菌もまた仮面を被っているのだ。
本書では他に、オカルトをテーマにした漫画作品や、オカルト番組がテレビで放送されつづける理由の考察なども載っている。テレビでは芸人が「信じるか信じないかはあなた次第です」などと無責任なことを云っているが、現実の危険を回避するためにも、本書が広く読まれることを乞い願う次第である。
文=清水銀嶺