今の40代は「若者兼高齢者」。今すぐ始めるべき老後対策がある!【『未来の地図帳』河合雅司氏インタビュー】
公開日:2019/8/22
参院選の争点にもなった「老後資金2000万円」問題。だが、その議論そのものをナンセンスだと指摘するのが、『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること(講談社現代新書)』(講談社)の著者である河合雅司氏だ。なぜなら、どれだけ老後資金を貯めても、その生活に必要なサービスを提供してくれる“人材”がそのものが減少傾向にあるため、サービスのあり方が変化することは免れないというのだ。
少子高齢化が叫ばれて久しい日本だが、解決や打開を先延ばしにしてきた問題は、大きなうねりとなって、近い未来の私たちに襲いかかろうとしている。特に、現在30~40歳の人々が受ける「変化の大きさ」は殊に衝撃的だという。本書は、高齢者の割合が増え、やがてその高齢者すらも含めた人口が減り始めるという日本において、これからどのような未来が訪れるのかを理論的に説く1冊だ。私たちの周りでどんな問題が起きようとしているのか、私たちはどのようにそれを受け止めていけばいいのか、その問いを河合氏にお聞きした――。
■いくら貯金しても生活が成り立たない事態が起きる
――『未来の地図帳』では、地域に根差したスーパーマーケット、百貨店、喫茶店ばかりか、銀行や病院といった生活に不可欠な施設さえ、地方から姿を消していくと予測されています。まず、どうしてそのようなことが起きるのでしょうか?
河合雅司氏(以下、河合):どの産業においても、経営を成り立たせるための最低限のマーケット(市場)規模が必要です。これから日本は著しい人口減少によってマーケットが縮むだけでなく、産業やサービスの担い手が高齢化することや人手不足によって、事業継承さえ難しくなります。現に、慢性的な人手不足が叫ばれている病院業界であっても、なかにはベッドが空き始めているという病院も生じ始めています。これは、日本の先行きを端的に表していると思います。病院だけでなく、今後は人口減少によって売上が下がり、人手は確保できず、厳しい状況に追い込まれる産業分野は増えるでしょう。地方からあらゆるお店や施設が姿を消すといった背景は、こういうところにあります。
――たとえ貯金があっても、それを使う場所さえなくなるということですか…。生活そのものが難しくなる恐ろしい未来ですね。
河合:この先の少子高齢化問題の“本質”は、日本が富を得るための手段そのものが削がれ始めていることにあると考えています。人口が増加傾向にあった時代には各産業で利益を上げやすく、それによって税収入も増えた時代だったので、過疎地であってもそこへ集中的に対策を行うだけの体力が全体としてはありました。都会にその力があったからです。しかしこれからの時代は、人口の減る地域が「面的」に広がりながら、さらに各産業のマーケットもしぼみ、国が税収入を確保することも難しくなることは明確です。地方への対策を行う体力が著しく減り始めるのです。
――2018年度の国の税収は過去最高という報道がありましたが…?
河合:たしかに今はミニバブルが起きたような形で過去最高の税収がありましたが、それも長くは続かないでしょう。今のまま、この人口減少が続くと「お金をいくら貯めても、必要な生活サービスを受けられない!」という未来がやってきます。それも、わずか十数年後に来てしまうのです。ところが、その危機感がどれだけあるのか、という懸念がありますね。
――たしかに私たちには「人口減少は国が招いた問題でしょ?」という、どこか他人事のような雰囲気が流れています。
河合:それが最大の問題です。現在日本全体で見れば、東京一極集中という大きな流れがあり、地方においても各都市圏には人口が集まり続ける傾向がしばらくは続くでしょう。ですが、人口を集め続けてきた東京でさえも、2030年をピークに人口が減り始めます。そのため、東京でも起こる著しい少子高齢化によって、バリアフリーや介護対策など、人口構造の変化に対応を迫られて経営面での体力を奪われるでしょう。さらに、若い人材の確保は一層難しくなる。少子高齢化は、老後を迎えようとしている親世代の問題ではなく「あなた自身、私たち自身の問題」なんです。未来の問題ではなく、今まさに解決すべき課題です。
■40代は「若者兼高齢者」。その老後にはどんな未来が?
――最近では単身世帯の増加も問題となっています。たとえば「地方で一人暮らしの60代片親を抱える、都心で一人暮らしの40代」というように、一人で生活する親を心配しながら、自分自身も未来に不安を抱えている人々は多いですね?
河合:2045年に日本の高齢者数がピークを迎えます。高齢者の割合が40%を超えると予測されているので、ほぼ2人に1人が高齢者という状況です。今40歳前後の人たちは、その2045年頃には65歳前後になりますね。特に女性の半数は90歳まで存命すると言われていますから、たとえば「2045年頃に自分が65歳を迎えて退職した一方で、親も存命中で介護が必要な状況にあり、体力も経済力も衰えを感じる…」といった事態が全国で多くの人に起こり得るのです。
さらに、その時代になると、若者の数は極端に減少しています。労働人口が減り、税収が減るので、行政の体力も落ちて公的サービスも満足に受けられないかもしれません。
――では現在40代の人たちを含め、私たちはどのような心構えで未来を迎えればいいのでしょうか?
河合:私は、今の40代は「若者兼高齢者」と表現するのがちょうどいいと思っています。彼らはとても重要なパラダイムシフトの渦中にいる、一番微妙な世代にあるからです。40代の人たちは自分では働き盛りの若者だと考えていても、近い未来に日本で巻き起こる高齢化による問題を「今自分に降りかかっている問題だ」として考えなければいけないからです。自分もやがてすぐ高齢者になると自覚して、解決に動かなければなりません。
――「若者兼高齢者」。自分自身のことに置き換えてもとてもしっくりくる表現です。それにしても40代にとっては試練な時代がやってきますね。
河合:たしかに、現在から未来につながる日本の激変期で、これまでの成功パターンはもはや通じないということも多くなってきました。ですが、「社会全体の人口減」と「個人の幸せ」はまったく別の問題です。変化は新しいビジネスチャンスを生むこともできます。今の社会システムが成り立たなくなる可能性は高いですが、ものは捉えようじゃないでしょうか。今の生活スタイルはどこまで続くのか? という視点をきちんと持って、未来を見据えて行動すればいいはずです。