「つながりたい人」/林真理子『女の偏差値』④
公開日:2019/8/12
言わずと知れた日本女性のお手本、林真理子さんの「美女入門」Part17。アンアンでの連載もついに20周年! 昭和・平成・令和…いつの時代も最先端。現状に満足せず上を目指して努力を続ける。それが美女の、生きる道!
つながりたい人
最近スマホをいじりながら、考えることがある。
「こんなにお友だち、必要なんだろうか」
三百二十人いる。いつもラインかわす人は十人もいないけれども、何となく交換した人がいっぱいいるわけだ。
ごはんを食べる。初めての人もいる。
「楽しかったねー」という言葉の後で、
「じゃあ、みんなでライン交換」とか、
「グループつくろう」ということになるはず。しかし中には、
「ワタシ、この人とはもう二度と会わないだろうなぁ」
と思う人がいる。ちょっと苦手なタイプだ。しかしこういう人に限って、やたら遊びに誘ってくる。断るのがとても大変。
若い人ならスタンプだけですむんであろうが、いいトシの大人がそういうわけにもいかない。
その反対に、聞きたくて聞きたくてたまらない番号やアドレスというのがある。某男性とは時々会ってごはんを食べる仲。でも私は彼のアドレスどころか、携帯の番号も知らない。それはなぜかというと、この世に携帯というものが存在しなかった頃からの仲だからだ。私は知りたくてたまらない。が、まさに「機を逸してしまった」のである。
ユーミンともそうであった。彼女とは三十年以上の仲。しかし友だちではない。大スターとファンという距離は縮まったことはなかった。一緒にごはん食べても、お芝居観に行っても、お酒飲んでも、あちらはあくまでも大スターの女王さま。私なんかウザいファンの一人でしかない。
が、そのユーミンがこのあいだ、
「そういえば、携帯教えてないよね」
と交換してくれた時の嬉しさ。いちファンからちょっぴり昇格したということですよね。
ところで、私のまわりには「魔性の」とか「凄腕の」とか言われる女性が何人かいるが、彼女たちの連絡先の聞き方というのは、まさに神業である。
つい先日のこと、某シンポジウムが開かれることになり、地方都市に一泊した。そこにゲストとしてやっていらしたのがAさん、と思っていただきたい。詳しい職業は言えないが、古典芸能をやっている有名人だ。
仲よしのB子とだらだらお酒を飲んでいたのであるが、ホテルのバーが閉まってしまった。
「コンビニで何か買って、私の部屋で飲もうか」と提案したら、
「じゃあ、Aさんも呼んであげよう」
と電話をしたのにはびっくりした。確か初対面のはずだったのに……いつのまに……。
けげんそうにやってきたAさんに、B子は艶然と言い放った。
「だって、ひっかけるつもりなんだもん。ふふふ……」
相手はびっくり。でも嬉しそう。頬っぺたを自分でひっぱり、
「あー、ひっかかった」
とふざけてみせる。それに、
「本気でひっかけるわよ」
と色っぽく言う彼女。なんかすごいやりとりを見せてもらった。
次の日、彼女の携帯はAさんからの着信でいっぱい。しかし出たりはしない。
「だってめんどうくさいもん」
こういう人にとって、男の人というのは、そこにいればモーションかけて、その気にさせるものなんだとしみじみわかった。
「山があるから登る」
というようなもんなんだ。
ところで先週のこと。このB子とあるパーティーに出かけることになった。そこには今をときめく、大スターのCさんがいらっしゃることになっている。私たちはその方とは旧知の仲だ。しかし全く親しいというわけではない。私は願望を口にした。
「こんなチャンスはないんだから、なんとかラインをゲットしたい」
「まかせて」
と彼女は言ってくれた。
そして当日、Cさんに挨拶をし、近くに座る私たち。
「あのー、一緒に写真撮ってもいいですか」
と私がスマホをとり出した瞬間、すかさず彼女が言ったのだ。
「Cさんって、ラインしますう?」
「しますよ」
「じゃあ、つなげてくださいよぉー」
「いいですよ」
びっくりした、なんてもんじゃない。大スターともこんなに簡単にラインがつながるものなの! しかし私も必死で頑張った。
「グループでお願いします!」
と入り込んだのである。そして四日がたった。グループラインは、B子の熱烈なCさんへの賞賛と、彼のややそっけないけど嬉しそうな返事がやりとりされている。私なんかもうじきはじき出されそう。
そう、恋愛のマストツールでは、いつもこんなドラマがくりひろげられているのである。
1954年山梨県生まれ。コピーライターを経て作家活動を始め、82年『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で第九四回直木賞受賞、95年『白蓮れんれん』で第八回柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で第三二回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。2018年、紫綬褒章受章