「パワハラだと思われたくない…」嫌われずに部下を叱るコツとは
公開日:2019/8/16
部下を指導することは上司の仕事のひとつだ。部下が間違った行動をしたときには、それをきちんと指摘する必要がある。しかし、部下を叱るのは簡単なことではない。相手に嫌われてしまうのでは、という思いがよぎり、なかなか叱れないという人も多いだろう。しかも、社会に「パワハラ」という単語が広まったことで、ますます部下を叱ることに抵抗を覚える人が増えた。叱り方を間違えて部下がパワハラだと受け取れば、最悪訴えられる可能性があるからだ。だが、パワハラ認定されるのを恐れて部下を叱らずにいるわけにもいかない。そこでおすすめしたいのが、『嫌われずに人を動かす すごい叱り方』(田辺晃/光文社)だ。
著者の田辺晃氏は人材育成コンサルタントで、企業研修や講演を精力的に行っている人物。以前上梓した『叱らないで叱る技術!』(田辺晃/セルバ出版)では叱り方の方法論について詳しくまとめていたが、本書はその入門編という位置づけ。よりシンプルに叱り方のポイントが説明されているので、とてもわかりやすい1冊になっている。
田辺氏によれば、叱るときに大切なのはコミュニケーションを取ることだそうだ。本書では、ただ部下を叱る方法ではなく、叱った結果として部下が自身の行動や考え方を改めてくれる、そんなコミュニケーション方法が紹介されている。
例えば、田辺氏おすすめの叱り方には決まった流れがある。まず相手に日頃の感謝を伝えて心をほぐす。次に、叱りたい事柄について客観的事実だけを述べ、そのあとに相手への要望を伝える。このとき、汲んであげたい点をしっかり汲みとることがポイントだ。自分が味方であると理解してもらうことで、聞く耳を持ってもらえるようになる。
そして、重要なのはこのあと。相手がどうしてこのような言動をとったのか、その理由を聞くのだ。たとえ言い訳に聞こえたとしても、ここでそれを指摘してはいけない。最後まで相手の話を聞き、内容を理解することが大切だ。
話を聞き終わったら今後の対策を相手に考えてもらう。こちらが解決策を提示するのではなく、自分で考えさせることで、相手は自発的にそれを守ろうとするのだそうだ。対策が決まったら支援を申し出て自分にできることがあるかを聞き、最後にお礼と励ましの言葉で締めくくる。一方的に叱るのではなく、相手の言い分にもきちんと耳を傾けることで、信頼関係が構築できるのだ。
本書ではさらに、この基本的な叱り方の流れを応用した、部下のタイプ別・シチュエーション別の叱り方も掲載されている。例えば、自己防衛意識が高くて聞く耳を持たない人。このようなタイプは、客観的事実を指摘しても反論したりキレたりして認めようとしない場合が多い。このような人に対しては、反論されても否定せずに受け止めることが大切。そうすると相手は自分が感情的になっていることに気づくのだそうだ。そのうえで、こちらが叱りたいことと相手が反論したいことを分けて話すことを提案すれば、話し合いがスムーズに進む。
タイプ別・シチュエーション別の叱り方では、実際のシーンを想定した上司と部下のコミュニケーション例が載っているので、言葉の選び方の参考にもなる。また、たとえ掲載例通りに話が進まなくても、基本の型を守っていれば場面に応じた応用が可能だ。
本書の叱り方を実践すれば、お互いが嫌な思いをすることなく、部下を成長させることができる。部下の顔色をうかがってしまう人や、上司になったばかりの人におすすめだ。本書の内容は会社に限らず、家庭やほかの場面で叱る際にも役に立つに違いない。仕事のスキルだけでなく、人間性も周囲から認められる素敵な上司を目指してはいかがだろうか。
文=かなづち