体罰、暴言、虐待が子どもの脳を変形させる! 児童虐待が及ぼす深刻なダメージ
公開日:2019/8/13
痛ましい児童虐待のニュースは、連日のように新聞やテレビで報道されている。最近になって児童虐待が増えているのか、それとも昔から多かったのが表面化するようになったものなのだろうか? かつては、大家族だったり、近所付き合いも濃密だったりしたため、悲惨な事態になる前に誰かが止めに入ったのかもしれない。
児童虐待が、いかに子どもの脳に深刻なダメージを与えるかということについて指摘するのが、『虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ』(友田明美、藤澤玲子/新曜社)だ。友田は小児発達学、小児精神神経学などを専門とする脳科学者。藤澤は福井大学子どものこころの発達研究センター技術補佐員としても勤務するライターである。
■虐待が脳の形を変形させてしまうという事実
本書によれば、虐待が子どもの心に深い傷を残すことは以前からわかっていたが、近年の研究では、「物理的に」子どもの脳を変形させ、障害を与えるということも判明してきたという。具体的には、親から暴言を受け続けると聴覚野が変形し、厳しい体罰を受け続けると前頭前野が縮小、さらに親のDVを見聞きすると視覚野が縮小することがMRI画像によってそれぞれ判明している。そして、その影響が成長後に、うつや不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、解離性障害、非社会性パーソナリティ障害などの精神疾患を引き起こす原因となるのだ。
もちろん、脳の変形という生物学的要因だけが精神疾患の原因ではない。ほかに、それぞれの性格に関連した心理学的要因と、家庭、地域、環境などその人を取り巻く社会的環境要因も原因となる。これら3つの要因が複雑に絡み合って、虐待を受けた人に深刻な精神疾患を引き起こすのだ。
別の言い方をすれば、虐待を受けた人が必ず精神疾患を起こすというわけではない。もし虐待を受けたとしても、幸運にも社会的環境要因に恵まれていれば問題なく成長することもできるというのだ。だが、虐待が起きるような環境では、3つの要因のどれもが発生しやすいことも大いに考えられる。
■深刻なダメージを大人になって回復することは可能か?
人間の脳は、幼少期にほとんどの発達を終えてしまうそうだ。つまり、幼少期の脳へのダメージはかなり致命的だ。回復することは難しいが、絶対に不可能ということではない。そのことは本書において、外国語の習得をたとえにして説明されている。
外国語は、脳機能が定着する前の幼少期に学ぶほうが、習得がたやすいとよく知られている。脳の発達がほぼ終わってしまった大人になってから外国語を習得しようとしても、なかなか完璧にはマスターできないものだ。しかし、大人にも外国語の習得は不可能なわけではないし、訓練を重ねれば、かなりの上達も見込める。
これと同じように、幼少期に負った脳の変形によるさまざまな障害を、大人になってから克服することは可能と著者はいう。ただ、それには本人の根気と長い時間も要するし、周囲の手厚いサポートが必要なことも事実である。
そのような苦労を子どもたちにさせないためには、言うまでもないことだが児童虐待がなくなるのが一番だ。しかし、児童虐待というのは極端に問題のある親だけがすることではない。もしかしたらどの家庭においても起こり得ることである。児童虐待の専門家である著者自身も、本書の中で「自分が子育てをしてきたなかで、本当に虐待をしてこなかったか?」と何度も自問自答している。
そういう意味では、親族や近所の人、あるいは保育士のような育児のプロなど、できるだけ多くの大人が子育てにかかわり、虐待にストップをかけるというのが現実的な予防策だろう。誰もがそのような周囲の人間関係に恵まれているわけでないのであれば、その現実を見すえた行政の対処が行われることを望みたい。
文=奈落一騎/バーネット