キレイになるのは誰のため? 私を解きほぐす心の筋トレ10か条

健康・美容

公開日:2019/8/19

『美容は自尊心の筋トレ』(長田杏奈/Pヴァイン)

 美容ライターが書いたにもかかわらず「モテようとも若返ろうとも、綺麗になろうとも書いていない、化粧品もちょっぴりしか載っていない美容本」。それが『美容は自尊心の筋トレ』(長田杏奈/Pヴァイン)です。

 読書にも美容にも関心がある私は、これまでにいろいろな本を読んできました。その大多数は美容法に関するもの。運動や食事、スキンケアの方法などこうすればきれいになれるという話が中心だったように思います。

 新しい美容法が出れば興味は湧くものの、そういくつも美容法を取り入れることはできません。そろそろ違ったテイストの本に出会いたいなと思っていたところ、目にしたのがこの本でした。

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この本を通して伝えたい「美容」は、「絶対的な美」という絵に描いた餅を渇望とともに追いかける無理ゲーではない。自分を大切にすることを習慣化し、凝り固まって狭くなった美意識をストレッチする「セルフケア」の話

 この本は、きれいな人を見たとときに自分とその人とを比べて自分には価値がないと思ってしまうような、マジメで内省的な人のために書かれたものです。そんな人はぜひこの本を手に取ってみてください。

 美容ライターをしているくらいなのだから著者は、もともと自信のあるタイプなのでは?と思うかもしれません。ところが、「生きているだけでなんだか申し訳ない」と感じるようなタイプだったといいます。

 美容とは人によっては「表面を着飾るチャラチャラしたもの」であったり「女らしさや社会人としてのたしなみを押し付けてくるもの」であったりするでしょう。また「望まないのに自分の容姿を品定めされる」ような怖いものだと感じている人もいるはずです。

 換金できるような美を持ち合わせているわけでもなく、若くもない著者。そんな著者は美しく賢い女性たちに囲まれながらどうやって楽しく過ごしているのでしょうか。その秘訣は、自尊心を鍛え続けてきたことにあります。

 美しさを一つの基準で考えることをせず、いろんな美しさを感じられるセンサーを磨き続けてきたおかげで、「生きているだけで美しいよね」と思えるようになったそうです。

 個人的に興味を惹かれたのは、兼業主婦である著者が最も苦手意識を持っているのが主婦誌の美容記事であるという話でした。著者が違和感を抱いている美容記事の切り口として挙げられているのは「ママ友に好印象」「夫に惚れ直させる」というもの。特に「ママだから時短」という考え方に対しては強く違和感を覚えるといいます。

 なぜなら「子どもがかわいいなら自分の夢は諦めて当然」といった「他人から押し付けられる勝手な母の愛」を感じるからだそう。

 この感覚にはとても共感できます。確かに子どもができると自分のことに使える時間は少なくなります。しかし、だからといって「時短」を強制されるのは違うと思うからです。

スキンケアは1分、メイクなら3分あればできることはたくさんある。その間、少しぐらい愚図っても待っていてもらえばいいし、自分でできることをやらせてみたらいい。先回りしてなんでもケアする、かゆいところに手が届く母親にならない心がけは、長い目で見たら子どもの健やかな自立を育むはずだ。

 好きでやっているならまだしも、「こうあるべき」という空気に振り回されて自分をないがしろにし続けている人は、将来思わぬしっぺ返しにあうかもしれません。期待した見返りがこなかったとき「あんなに尽くしてあげたのに」という恨みに変わってしまうのです。

 美容は時間がある人が、モテるためにするものではありません。自分の心の健康を保つ上で必要なものなのです。

 本書でも触れられているように、女性が一人で「母で、妻で、女で、働く女」の役割を果たすのが当たり前になっている今だからこそ「呪いの言葉」を解きほぐすための美容の重要性が増している、といえるかもしれません。

文=いづつえり