40代男性、孤立死して2週間後に発見される。なぜ彼は助けを呼べなかったのか――

社会

公開日:2019/8/18

『孤絶 家族内事件』(読売新聞社会部/中央公論新社)

 少子高齢化や核家族化が進み、人と人の結びつきはどんどん希薄化している。そうした一方で増加しているのが、家族間での事件。問題を内に抱え込んでしまった家族は、外部に助けを求めにくく、悩みを抱えたまま老々介護や児童虐待、孤立死などといった悲しい結末を迎えることが増えているというのだ。『孤絶 家族内事件』(読売新聞社会部/中央公論新社)は、そんな社会の現状に鋭く切り込み、悲しい結末を食い止めるにはどうしたらよいかを考えさせてくれる1冊だ。

 本書は5部構成となっており、老々介護や児童虐待、孤立死といった社会問題の他に、殺人という形で我が子を手にかけてしまった親の苦悩も記されている。家族間で起こる事件はプライバシーの壁が高く、真実は公に報道されにくい。しかし、本書は被害者だけでなく、加害者や関係者にも入念な取材を行い、事件の背景を明らかにしようとする。

 最後のパートでは、「支援先進国」だというイタリアや英国、米国、フランスで行われている実際の取り組みについても紹介されており、これから私たちにできる“孤絶対策”とは何かを考えさせられる。

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■孤立死が減らない背景は――

 現代ではスマートフォンやPCを開けば、誰とでも簡単に繋がることができる。だが、手軽に繋がれる相手はいても、本当にサポートが必要な時に頼るべき相手がいないというケースも多いのではないだろうか。そんな時代の中で孤絶状態にならないためには、家族内に事件を抱え込んでしまう「背景」にある社会問題をきちんと考えることが大切だ。

 本稿では、本書から「気づかれぬ孤立死」の章を紹介し、繋がりを持てる社会をどう作っていけばよいのかを考えていきたい。

■孤立死は高齢者だけの問題ではない

 毎年のように夏になると、エアコンが入っていない部屋で孤立死をしてしまった人の悲しいニュースを耳にする。その度に私たちは切なくやるせない気持ちになるが、孤立死を他人事のように捉えていないだろうか?

 孤立死は高齢者が気をつけなければいけない問題だというイメージが強いだろう。たしかに、老々介護の果てに、家族がいても孤立死に辿りついてしまったというケースもある。だが、高齢者だけでなく、社会的にみればまだまだ現役という世代も孤立死してしまう可能性は大いにあるという。それを示しているのが、2017年に宮城県石巻市にある被災者向けの災害公営住宅で孤立死した42歳男性のケースだ。

 男性は、津波で住んでいた家が倒壊し両親や妹が行方不明となった。もともとは無職で引きこもりがちだったというが、生活のために日雇い労働やスーパーマーケットでパート勤務するようになる。しかし、慣れない肉体労働を重ねたためか、急性心不全によって亡くなった。生前、男性は近所の人とコミュニケーションを交わしていたが、本音や弱音を語り合えるという間柄ではなく、遺体は発見された時に、死後2週間程度経っていたという。

 現実社会での繋がりが薄くなると、弱音を吐いたり助けを求めたりする機会も減り、難しくなる。家族に頼れないという人はなおさら、人間関係の幅が狭くなってしまう。だからこそ、孤立死を避けるには、老いる前から「繋がりを持つ場」を見つけることが大切だ。

■孤立死させないための努力が世界では広がっている

 例えば、フランスのパリでは2003年の猛暑で大勢の独居高齢者が自宅で孤立死してしまったことを踏まえ、高齢者と若者が同居する「異世代ホームシェア」の方策を打ち立て、家族以外の人との繋がりを後押しした。こうした取り組みを知ると、日本もパリのように家族以外の人とも助け合いや支え合いができるよう、サービスや施設を活かしていけたら…という希望を持ちたくなる。

 病気による孤立死は事件性がないと判断されると、「かわいそう」という言葉でその後忘れさられてしまいやすい。だが、社会的な孤立は人の命を脅かすほどのストレスになるという。勇気を出して、抱えてきた絶望を誰かと共有し合えたら、解決への糸口が見つかるかもしれない。

 本書は、現在孤独で辛いという状況に耐えながらもがいている人の希望にもなるだろう。ひとりでも多くの人に本書のメッセージが伝わり、絶望との適切な付き合い方や、より良い方向へのアイデアが広がることを願いたくなる。

文=古川諭香