ジャニー喜多川の育成論。オーディションで“名乗らなかった”真意とは?
更新日:2019/8/21
日本のエンターテインメント業界において、いつの時代も輝きを放ち続けるジャニーズ事務所。所属タレントがコンサートはもちろん、テレビや雑誌などさまざまな分野で、グループとしてもソロとしても活躍し続けているのは、もはや説明不要なほどに周知の事実だろう。
帝国とまで称される一大勢力を築き上げた背景には、2019年7月に逝去したジャニー喜多川氏の功績があったのはいうまでもない。過去にさまざまな媒体から発信された言説をたよりに独自の目線から“ジャニーズ論”を考察する一冊『ジャニーズは努力が9割』(霜田明寛/新潮社)には、ジャニー氏ならではの“育てる力”を理解するためのヒントが示されている。
■今ではなく“20年後の顔”がみえるかどうかが採用の基準に
ジャニー氏は「日本一優秀な採用担当者」であったと解説する本書。1962年の創業時から、半世紀以上にわたり第一線の芸能事務所として栄えてきた土台には、同氏の持つ「人を見抜く能力」があったと説く。
例えば、Hey! Say! JUMPの山田涼介は、今や多くのドラマや映画の主演を飾るほどに成長したメンバーの一人だが、オーディション当時は、丸顔のあどけない小学生の男子だった。他にも、KAT-TUNの上田竜也は、デビューを控えるジャニーズJr.の時代には、ファンから「サル」とあだ名を付けられていたなど、いずれのメンバーも「(幼かった当時は)スターとは形容しづらい存在でした」と著者は述べる。
しかし、当時からすでに、独自の視点で彼らを見ていたのがジャニー氏だ。本書では山下智久が過去に「僕には20年後の顔が見えるんだよ」と言われたエピソードも紹介されているが、同氏は彼らの“未来”を見通していた。オーディション時はそれこそ「成長期の男子のルックス」という不確定な要素が加わるにも拘わらず、である。
ジャニー氏が彼らに見出していたのは、今ではなく「将来の変化」だったともいえるが、著者は「傍から見たら、普通の男の子に見える少年たちでも、自らの目で未来を予想し、選抜」してきたと見解を示している。
■ジャニー氏だと明かさず“人間性”をみきわめるオーディション
ジャニーズ事務所で活躍するメンバーは、育成部門であるジャニーズJr.での下積みを経て、グループの一員としてデビューするのが慣例だ。これらの手前には厳しいオーディションがあるのだが、選抜の段階でジャニー氏がとりわけ注目していたのは個々人の「人間性とやる気」だった。
1990年代半ば、1カ月に1万通は送られてきたという履歴書のすべてに目を通していたというジャニー氏。オーディション自体も急遽で「スケジュールが空いた時、時間がもったいないからオーディションをやろうと、急にやるんです。突然速達で報せが行くから、受ける方も大変じゃないか」と、本書ではジャニー氏の発言も取り上げられている。
それ自体は“やる気”を判別していたのではないかと著者は考察するが、オーディションでは一方の“人間性”をみきわめるジャニー氏ならではの心得があった。
オーディション本番では、自分から名乗らないというジャニー氏。その真意は“人を見て態度を変える”かどうかをみきわめるためで、同氏は実際「ジャニーとわかって急に『はい、そうです』。こういう裏表あるのはだめですよ、子どもだから特に。あとで機嫌をとりにきたりする子もいますが、何を考えているのか」と過去にも発言している。
その一例だったのがTOKIOの松岡昌宏で、11歳でオーディションを受けた当時に彼は他の子たちがジャニー氏に気づいたとたんに襟を正した中でも、態度をまったく変えず「ふてぶてしいほどにリラックスしていた」という。
■ときには褒めて、ときにはけなす。ジャニー氏ならではの育て方
自分の見守ってきたメンバーの誰をも“子どもたち”として、かわいがってきたジャニー氏。いずれのメンバーにもわけへだてなく愛情を注いできたのはいうまでもないが、一方で、一人ひとりと向き合いそれぞれに合った“育て方”を心がけていたという。
例えば、KinKi Kidsの2人は対照的で、堂本剛は人生で一度しかジャニー氏に怒られた記憶がない一人。一方、堂本光一は「ユー、ヤバいよ」しか言われた記憶がないメンバーで、過去には「事務所のタレントに対して、“褒めて伸びる子・けなして伸びる子”というのもはっきりと見分けているような気がします」と同氏への思いを語ったこともある。
しかし、やみくもにけなしているわけではない。NEWSの加藤シゲアキがライブで振り付けを間違えたメンバーを「よく褒めていた」とジャニー氏との思い出を語るなかで「失敗を褒めてくれるってことが、すごくいろんな自信につながっていた」と振り返ったエピソードが本書で取り上げられているが、これを受けた著者は「叱責したり褒めたりして、プロとしての自覚を持つことを彼らに促していく」と、同氏ならではの育て方について言及する。
また、ジャニー氏は「仕事なんだからプロ意識を持ちなさい」という怒り方はしなかったという話もあり、これに伴い「“仕事を仕事と思わせないこと”がベースにあったような気がします」という、堂本光一の発言も取り上げられている。
同氏は過去に「作り手側が楽しく作れば、観る方たちも楽しくなるんです」と語っていたが、けっして苦ではなくメンバーたちものびのびと楽しめる環境こそが、ジャニーズがみせてくれるきらびやかな世界の土台にあるのだろう。
これらの考察をはじめ、メンバー個々の“努力”の礎にも言及している本書。節目とも思えたSMAPの解散と嵐の活動休止発表があった一方で、ジャニーズJr.から新たにSixTONESやSnowManがこれからデビューする。若い彼らの活躍から、ジャニー氏の育成論の真髄を振り返ってみるのはきっと価値があるはずだ。
文=カネコシュウヘイ