言いにくいことをスルッと言える“切り上げ力” /『言葉は凝縮するほど、強くなる』④
公開日:2019/8/29
『報道ステーション』を12年やって戻ってきたバラエティの世界。一気呵成のしゃべりは、今のテレビに向いていなかった。そう気づいた古舘伊知郎が、短い持ち時間の中で、いかに気の利いたこと、面白いこと、鋭いことを端的に言えるかを今一度考えた、日常にもビジネスにも使えるワンフレーズ集。その一部を紹介します。
相手の話が終わらない。さあどうする!
【NG WORD】 あのぉ、ちょっともう時間がないんで……
相手の話が長くて、途中で打ち切りたい。でも、話の途中で割って入ったら絶対に不快な思いをさせてしまう。そんなとき、どうやって幕引きすればいいのでしょうか。
「早く終わらないかなぁ」と、腕時計なり、部屋の壁掛け時計なりをチラチラ見る人がいますが、これは、本来、非常に失礼な行為です。相手に気づかれないようにさりげなく時計を見ているつもりだとしても、100%バレていると思った方がいいです。人は、他人の目線には超敏感だからです。
ただし、本当に、次の待ち合わせに間に合わなくなるから時間を確認しなければならないこともあります。そのときは、
「ちょっとすみません。時間だけ確認させてください」
と正直に言って時計を見ればいいと思います。
これで相手も、「そろそろ切り上げないといけないかな?」と思い始めますから、自然に幕引きできる可能性が高まります。
ただ、「時間がないので……」を、話をさえぎる言い訳にするのは極力避けたいところです。相手からすれば、
「時間がないなら、そんなときに会うなよ」
と思いますからね。
おじさんの長い話を見事にぶった切る方法
長くなりそうな話を切り上げるのが上手いな、すごいなと思ったのは、坂上忍さんです。
ダウンタウンと彼がMCで、お酒を飲みながらトークする番組『ダウンタウンなう』の「本音でハシゴ酒」というコーナーに僕がゲスト出演したときもそうでした。
フリップで、
「古舘さんは、自分の娘さんの披露宴の司会をしたらしいですね」
と話題をふられたんです。
「そうなんだよ。
『いよいよ宴も後半のクライマックスでございます。
今まで育てていただいた感謝の思いを花束贈呈に託します。
金屏風に位置をとった双方のご両親様。……おっと、新婦の父、ワンテンポ遅れてここに到着です』
と、良い感じになった話の途中で、
「はい! オッケーです!」
と打ち切られたのです。
おじさんの長広舌を見事にぶった切ってくれたのです。
まったく腹は立ちません。
むしろ、面白いな、すごいなと思いましたよ。坂上さんは、話を切る天才だと思います。
これ、忘年会の二次会なら応用がきくと思います。
誰かの話が長かったら、
「はい! オッケーです!」
とばっさり切ってしまいます。宴会ですし、どっと笑いに変わるのではないでしょうか。
社内会議であまりにも話の長い上司がいたら、そこでも「はい! オッケーです!」と使いたいところですが、ちょっとリスキー。場をわきまえて使うべきですね。
「弟力」を出すと寛大に受け止めてもらえる
坂上さんのように、話を途中でばっさり切っても嫌われない人は、言葉の使い方だけではなく、「弟力」というべきものも持ち合わせていると思います。
弟力とは一言で言えば、やんちゃキャラ。
相手の弟のつもりになって話すのです。力でも説得力でも兄や姉には負けるのが分かっているから、弟は一生懸命媚びたり、あるときは、
「お兄ちゃんって、バカだよね」
と生意気を言う。でも弟だから、
「しょうがないなあ。でも、あいつなら、まあ、いいか」
と思われます。
『直撃! シンソウ坂上』という番組で、坂上さんが橋田壽賀子さんにインタビューしているのを見ましたが、そのときの彼は、まさに弟キャラでした。
幼少のときから知っている橋田さんに対して頭が上がらないのでしょう、毒の一切ない、かわいい弟キャラになっていました。
僕は、樹木希林さんにロングインタビューをさせてもらったことがあります。
2018 年の9月に希林さんは他界されました。その前の年の3月に、私は東海テレビの番組でインタビューしました。そのときのことを振り返ると、私もある意味、弟キャラになっていました。
希林さんの患っている全身がんの話や、特殊な夫婦関係など、さまざまなことを聞かせてもらいました。
そして、インタビューの最後に、希林さんにこういったのです。
「今日は俺、勝負をかけていきました」
希林さんは誰かにモノをもらうのが嫌いな人です。
好きじゃないモノや、自分が使わないなと思うモノは、決して受け取らないのです。そおあたりはとても頑固な人でした。
ただ焼酎が好きなことを、僕は知っていました。だから久々に会った希林さんに、焼酎を受け取ってもらいたかったんです。
受け取るか、受け取らないのか。のるか、そるか。
そうすると希林さんは一言、こう尋ねてきたんです。
「あら、焼酎? 私ね、どっちか嫌いなのよ。麦? 芋? どっち?」
出た! と思いました。
持っていたのは、麦。正直に言うしかありません。
「麦です」
すると希林さん。
「あらー、もらっとくわ」
と、ニッコリ笑って受け取ってくれて、雨の日に傘をさして帰っていきました。
ここからは僕の想像ですが、希林さんは、麦も芋も嫌いではないのではないかと。どっちにしてももらうつもりで、でも、僕の「今日は俺、勝負をかけてきました!」という一言に乗っかってクイズにしてくれたのではないかと。
だとすると、僕は弟キャラだったけど、希林さんは弟をうまく操縦する姉に徹してくれる優しさがあったということになりますね。
姉のことを大好きな弟が、勝負をかけてきた。それが、温かいエンディングにつながったのかな? と思っています。
【POINT】 やんちゃキャラで多少の粗相は許される
古舘伊知郎
立教大学を卒業後、1977(昭和52)年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、フリーとなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民法全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。