会話が不思議と盛り上がる“キャッチフレーズ力”/『言葉は凝縮するほど、強くなる』⑤
公開日:2019/8/30
『報道ステーション』を12年やって戻ってきたバラエティの世界。一気呵成のしゃべりは、今のテレビに向いていなかった。そう気づいた古舘伊知郎が、短い持ち時間の中で、いかに気の利いたこと、面白いこと、鋭いことを端的に言えるかを今一度考えた、日常にもビジネスにも使えるワンフレーズ集。その一部を紹介します。
古舘流「キャッチフレーズ術」
【NG WORD】 とにかく大きいプロレスラー
「あの人、〇〇さんに似てるよね?」
こんな他愛のない話で盛り上がることがありますよね。
誰かにニックネームをつけるのは、何かにたとえるのが得意な人。
そういう人は、無意識にせよ、例えるために対象の本質を見つけ出しています。このことは僕も、実況中継をしていた頃からかなり意識していました。
「本質を見つける」ことは、効果的な“たとえ”を導き出すだけではなく。話題を膨らませることにもつながります。
ではどうしたら「対象の本質を見つける」ことができるのでしょうか?
それには、まず対象の特徴を“分解してみる”ことです。
たとえば、甘納豆のお菓子が置いてあるとします。
特に有名ブランドでもない、どこにでもありそうな甘納豆です。
この甘納豆を分解するとどうなるか。
なんでもいいのです。見えたこと、感じたことを箇条書きで考えていきます。
① 一粒を見ると、おたふく豆みたいな豆に砂糖がまぶしてある。
② 濃い茶色や緑色のつぶが混じっている。
③ 数粒が小分けされた袋に入っている。
④ 袋の正式名称は、個包装用ガス袋である。
⑤ 小腹がすいたときにつまめるように配慮されている。
ここから「個別に入っていること」がこの甘納豆の「本質」なんじゃないかと仮定します。それを話の中に落とし込んでいくだけで、話は豊かに広がっていくはずです。
「昔は、駄菓子屋では大福がそのままお盆の上にボンと乗っていて、そのままわしづかみにして食べることができました。でも、この甘納豆は、いかにも今どきのお菓子ですね。個装されています。こんなふうに、なんでもコーティングされ、オブラートに包んで話さなければ嫌がられる世の中です……」
こうして対象を分解し「本質」をつかめれば、他の何かと関連づけやすくなると思います。
僕は、プロレス中継の実況中継をしていた頃、視聴者がよりイメージしやすくなるように、レスラーにニックネームをつけて呼んでいました。
2メートル23センチの身長、200キロ以上も体重のあるアンドレ・ザ・ジャイアント選手のキャッチフレーズは、
「一人と呼ぶには大き過ぎ、二人と呼ぶには人口の辻褄が合わない」
アンドレ・ザ・ジャイアント選手の本質は、その「大きさ」にあります。
そして、その本質である「あまりにも大きな人間の肉体」をどう形容すればいいんだろうと考えたとき、「ああ、二人だ」と気づいたのです。
一人だけど、二人いるかのような巨大さ。でも、一人ですから、二人と言うのは物理的に辻褄が合わない。このフレーズは当時、かなりウケました。
ウケる言葉は、嫌われる言葉でもある
ニックネームをつけたり、何かにたとえたときにドカンとウケる言葉は、一歩間違えると嫌われる言葉にもなります。
例えば、美容整形を繰り返している人のニュースを見たとき、「このまま繰り返していくとどうなっちゃうんだろう?」という疑問から、
「顔面サグラダ・ファミリアみたいだね」
と言ったことがあるんです。
サグラダ・ファミリアは、バルセロナにある文化遺産ですが、あれを見たとき、「建築家・ガウディが仕掛けた壮大なトリックではないか?」と思ったんです。
だって、着工してから実に137年。2026年に完成予定と言われていますが、完成した瞬間に、経年劣化を起こしている箇所から崩れ、そこを修復していたら、いつまで経っても未完のままでは? ガウディは最初からそのことを織り込み済みなのでは? と思ったのです。
こんなふうに、「崩したらお直し」を繰り返して結局完成しないように見えるサグラダ・ファミリアが、最初は目、次は鼻、今度はたるみ、シワ……と美容整形を繰り返す人のニュースを見たとき、僕の中で重なったんです。
でも、どんなに自分の中では辻褄が合っていても、たとえニュースの感想だとしても、いきなり「顔面サグラダ・ファミリアみたいだね」と言ったら、不快になる人もいますよね。人の顔をなんだと思ってるんだ、バカにしいてるのか、失礼じゃないか、女性の敵だ云々言う人は必ずいます。
ウケ狙いではなく、コミュニケーションを円滑にしようと思って発言した言葉も、誰かにとってはイヤだと思われる可能性はあります。つい、どうせなら誰からも好かれたいと思ってしまいますが、そんなことはあり得ない。
十人中六人に好かれたとしても、四人からはめちゃくちゃ嫌われる。
そういうものだと思っていれば、何かを伝えたり表現することに勇気を出せるのではないでしょうか。
【POINT】 話を面白く広げたいなら、本質をつかむこと
古舘伊知郎
立教大学を卒業後、1977(昭和52)年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「古舘節」と形容されたプロレス実況は絶大な人気を誇り、フリーとなった後、F1などでもムーブメントを巻き起こし「実況=古舘」のイメージを確立する。一方、3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民法全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。