金もコネもない個人がネットを駆使して有名人になる「感情に訴えるルールと戦術」とは?
公開日:2019/8/23
連日ニュースで話題になっているNHKから国民を守る党・立花孝志氏。YouTubeの有名人かと思っていたら、いつの間にか猛ダッシュで“時の人”となっていった。
本書『ビジネスで勝つネットゲリラ戦術詳説』(えらいてんちょう/ベストセラーズ)の著者で、起業家の “えらいてんちょう”に言わせると、立花氏の戦い方は「バックグラウンドを持たないにもかかわらず、ネットを駆使した贈与・宣伝戦略を展開し、大衆の共感を得る」という、資金を持たない個人・小規模集団の戦い方として非常にわかりやすいモデルケースなのだそうだ。
本書では、満員電車が苦手で朝起きられなかったため、就職を諦めリサイクルショップの店長となり、イベントスペースの開設やYouTubeによって知名度を上げ、ネット発の有名人となった“えらいてんちょう”が、自らの経験や、岡崎体育や立花氏などネット発の話題の人物にスポットを当て、そのルールや戦術、成功例を分析する。
まず本書の大前提としてネットビジネスの世界を戦場とするなら大企業は「正規軍」。そして資金もコネもない個人、はたまた小規模集団は「ゲリラ」とする。さて、何も持たないゲリラ達が正規軍に勝つにはどんな戦い方があるのか。その例を見てみよう。
■経済のバグとゆるい贈与
「経済のバグ」とは経済のルールが狂う瞬間のことである。具体的な例で言うと「富士山の山頂に設置されたひと缶500円の自動販売機」。こういった特殊な条件で起こることを、本書では「バグ」と呼ぶ。大企業にネットゲリラが勝つにはこの「経済のバグ」を目ざとく見つけ、突くことが肝心なのだ。
そんな経済のバグは贈与でも起こる。贈与は大きな資本がなくてもできる。
本書の例だとN国党は「NHK撃退シール」を無料配布している。シールなので元手はさほどかかっていないが、シールを無料で配布したN国党に恩を感じて選挙で票を入れてくれるかもしれない。結果、見事立花氏は当選を果たした。
■「飢え」へのアプローチと単純接触効果へのねらい
また、贈与にはこんな方法もある。それは相手の感情、特に「飢え」にアプローチすること。例えば「人気のない駆け出しYouTuberへの投げ銭」だ。普通の人に100円をあげたところでそこまで感謝されないが、人気が欲しくて仕方ない駆け出しYouTuberにとってはたとえ100円でも100円以上に価値を感じてくれる。もし有名になったら、その時の恩で何かリターンがあるかもしれない。重要なのはこの回数を増やすこと。一度や二度じゃ忘れられてしまうが、弾を何度も撃てば強く印象に残る。単純接触効果をねらうのだ。
単純接触効果と言えば、YouTuberも休みなく毎日動画をアップすることでファンがついていく。例えば、1日1本どころか1日数本の動画を毎日アップするとする。編集されていなくても、毎日出る新作にファン達は反応してくれるのだ。さて。こういった攻めの戦い方がある一方、「撤退」も重要な戦術だ。
■ゆるい独裁と自治の両立
ゲリラも人を雇う。ただしゆるく雇う。多くの意見を重んじる民主主義スタイルは保守的な方向に傾くため、スピードや攻めの姿勢が重要なネットゲリラの強みを弱めてしまう。「ゆるい独裁」ならば、カリスマの一存で「やーめたっ!」とさっさと撤退して別のチャレンジにパワーを割くことができる。
一方独裁ではありながら自治もあり、仲間達には「やりたいことがあったらやっていいよ」というスタイルを築いているため、独裁と自治の両立が成り立っている。
…そう。どこかで聞いたことのある話ではないだろうか。
■わかりやすい敵を作る
著者は「おすすめできないやり方」としているが、敵の存在は衆目を集めるために重要とされている。例えばYouTuberが敵を作り上げて戦いを繰り広げると大衆は熱狂し、動画は拡散されていく。どちらに正義があるかはあまり重要ではなく、戦いを見物して楽しむために賑やかす。…これもどこかで聞いたことのある話だ。
こんなルールと戦術を心得て、人の感情や心理を動かし味方につける。戦国武将も政治家もネットビジネスの世界も、人の心に訴える戦術こそが勝利の鍵を握るのかもしれない。
文=線