「ルーブルにあるモナリザは偽物?」本物のモナリザを取り戻すため贋作師となった藝大浪人生の運命は…?
更新日:2019/8/24
「ルーブルにあるモナリザは偽物?」『モナリザマニア』(ヨシカゲ/集英社)は、世界的名画を巡る冒険の物語である。
天才的な贋作師である主人公のカワセミが、収集家や画家たちと“審美眼”バトルを行い真のモナリザに近づく。さらに才能を磨いていく。
先日『ジャンプSQ.』でクライマックスを迎えたばかりの本作をレビューしていく。
■目的はモナリザの奪還! 藝大浪人生が天才贋作師に!
カワセミが4回目の藝大受験に失敗したところから物語は始まる。彼は予備校に通うお金もなく、そして自分に才能がないのだと絶望していた。
そこにフリーで画商をしているというメルが現れる。カワセミの絵をみていたというメルは、彼の技術、知識、審美眼は天才的で、その能力でカワセミは億を稼ぐ贋作師になれると言う。
ただその目的は犯罪ではなかった。メルは、ルーブル美術館に本物のモナリザを取り戻すために、カワセミの天才贋作師としての能力を必要としていたのだ。今ルーブルに展示されているモナリザは偽物であり、世界に散らばっている贋作とされる5枚のモナリザの中に本物があるという。
メルに連れられたカワセミは5枚のモナリザの所有者たちに審美眼勝負を挑み、勝つことでモナリザを手に入れていく。
ポイントとなるのは審美眼だ。本作での意味は、絵の価値を理解すること、真贋を見抜くこと、そして画家の想いを読み取ることである。
カワセミは最高の審美眼を発揮し、さらに超絶技巧を駆使し、画家の想いや意図までも描き出す。こうしてできた贋作は、みる者に真贋を見極めさせない。つまり画家の審美眼を盗み、対決する相手の審美眼を奪っていくのである。
3枚のモナリザを手に入れた彼らの前に、コルヴォという男が立ちふさがる。コルヴォはイタリア文化財活動省の人間だった。にもかかわらず手段は選ばず、少女をさらい、マフィアをも手下で使う。モナリザに心と頭のネジを奪われた危険人物だった。
そして彼と行動を共にする完全な審美眼をもった少女、ピィカも登場。ストーリーは佳境に入っていく。
■贋作を描き磨かれるカワセミの才能
観察眼に優れ、コピーやアレンジの能力が高かったカワセミ。上手い絵は描ける、しかし独創性がない。それが自他ともに認める藝大に受からない理由だった。
それが展示されて衆人にみられる贋作を描き、時には危険に晒されながら審美眼勝負をすることで、最高の審美眼と才能が磨かれていく。いつしか贋作師としての才能に加えて、オリジナリティのある作家性も身につけていく。
『モナリザマニア』は、世界的名画を巡る冒険の中で、主人公・カワセミの画家としての才能が開花していく物語でもあるのだ。
■絵画好きもニヤリ! 独特の迫力を感じるシーンの秘密は…
『モナリザマニア』には絵柄のタッチが明らかに変化する部分がある。たとえばカワセミが贋作を描くシーンなどだ。実はこれ、その画家のタッチになっているのだ。
1巻でカワセミは失われた芦屋のひまわりを描く、ここではっきりとゴッホ風の独特のタッチに変わる。画家が憑依しているようなカワセミの過集中描写とも相まって、不思議な迫力のあるシーンになっている。
本稿のライターのような、絵画を知らない人間でも、それとわかるように描かれている。もちろん絵画に興味があれば、より深く楽しめる作品なのだ。
■モナリザを巡る争いの最終決着とカワセミの運命
コルヴォを追ってイタリアへ向かったカワセミたち。物語はクライマックスに向かって一気に動き出していく。
完全な審美眼をもつピィカと最高の審美眼をもつカワセミの決着は? 本物のモナリザは手に入るのか? そしてカワセミの夢はかなうのか…? ラストまで目が離せない展開が続く。
2019年9月に発売する最終巻を読む前に、ぜひ1巻2巻をじっくりと楽しんでみてほしい。
文=古林恭