公務員に光を…。“税金で食っている”からこそ、市民のために奔走した職員の記録
公開日:2019/8/29
公務員は難儀な仕事だ。何かにつけやり玉に挙げられ、市民がわずかでも不満を持つようならば“お役所体質”だと揶揄される始末。筆者自身に役所で働いた経験はないが、両親が公務員だったことから、彼らの仕事が“加点はなく、減点されるのみ”であると薄々感じていた。
その評価が正しいか否かは分からないが、何はともあれ本来、行政で働いている人たちがいなければ私たちの生活が成り立っていないのも事実である。では、彼らにスポットを当てる機会はないのか。そう考えながら手に取った一冊が『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』(加藤年紀/学陽書房)だった。
役所で働く人々に光を当てた本書は、それぞれの現場で彼らが“前例”を打ち破った事例を取り上げた一冊。「出る杭は打たれる」とされる世界で、組織を変えようと奔走した人たちのドキュメンタリーだ。
■入庁から6年目。滞納の“慣例”を見直そうと奔走した男性職員
大阪府寝屋川市の男性職員は、地方税の滞納整理に奔走した。彼が担当に就いたのは、入庁から6年目の2011年。前年度以前の未納分から継がれる滞納繰越額の健全な状態が1%以内といわれるなか、当時の寝屋川市は、10%を超えるほど問題が深刻化していた。
そこで男性職員は、未納分の差押えを見直そうと取り組んだ。従来は、未納者に対して催告書を段階的に送付したのちに実施する方法をとっていたが、運用方針を見直すにあたり、催告書に記載された納付期限までに対応しない者については、すみやかに差押えを行う方法へ舵を切った。
ときには「玄関や窓の鍵を開けて、家の中を捜索することもありました」と振り返る男性職員。厳しい処分が科される市民の間では「寝屋川は滞納が厳しくなった」と噂が広まったことで「自ら納付する方も増えていったと思います」と感想を述べているが、一方で、役所でも「滞納が放置されれば、厳しい処分が当たり前」という認識が生まれた始めたと語っている。
■税金で食っているからこそ、市民全体のために仕事せなあかん
ときには「お前、夜道に気をつけろよ」「顔と名前、覚えているからな」という言葉も投げかけられるという税金の滞納整理担当。厳しい対応をすると「税金で食ってるくせに!」と反発を受ける機会もあるが、寝屋川市の男性職員は「実際、僕は税金で食ってるんです」と自負を明かす。
本書の中で、男性職員は「税金で食っているからこそ、一生懸命、市民全体のために仕事せなあかんと思っています」と言い切る。
お金が生活の基盤であるのは誰しも同じ。だからこそ「いくら、『納付している大多数の市民のために』という大義名分や綺麗事を言っても、どうしたって滞納者を苦しめながらやっている」と葛藤を抱えつつも「他の滞納者に緩慢な対応をしてしまったら、今まで辛い思いをさせてきた人たちに申し訳が立たない」と思いながら、仕事にまい進していたという。
■地道なコミュニケーションが実を結び周囲からサポートを受ける
一方で、組織内の調整も不可欠だった。役所では「仕事を頑張ると、上司や同僚の一部から叩かれることも少なくない」とする本書。大筋のテーマにあるのは公務員であるが、これは広く、どの組織にもあてはまるかもしれない。
そこで男性職員が入庁以来心がけていたのは、周囲との地道なコミュニケーションだった。先輩や上司にはプライベートの悩みも打ち明け、親ほど年の離れた職員からも「息子に接するみたいな感じで可愛がってもらいました」と振り返るが、実際、滞納整理の部署へ異動したときも日頃からの心がけが実を結んだ。
催告書を一斉に送付したときは、電話が一日に何本もかかってきたというがその場面でも上司が「厳しい処分を一手に担ってくれるから、周りもサポートしてあげてください」と部署内に協力を促してくれたと回想する男性職員。良好な人間関係というのもやはり、円滑に“事を運ぶ”上では欠かせないということだろう。
さて、組織内はもちろん、ときには市民からも厳しい目にさらされる公務員の仕事は、とりわけ“がんじがらめ”な印象もある。しかし、私たちが生活できるのは、彼らがいるからこそだ。地方自治体で働く人々を追った本書を読めば、これまでの“公務員像”がわずかながらでも変わってくるはずだ。
文=カネコシュウヘイ