ヤクザの語る仕事メソッドがほぼ「自己啓発系」? グレーゾーン・ビジネスでボロ儲けした男の素顔
公開日:2019/8/29
誰でも、人がやりたがらない“ヤバイ仕事”のほうがカネになることは薄々知っている。だが、完全に非合法なビジネスは警察に捕まったり、命の危険があるなど、当然リスクも高い。そこで、ある種の人たちは、合法と非合法のギリギリの線を狙った“グレーゾーン”で商売をしようと考える。ホワイトなビジネスよりも儲けが大きく、ブラックほど危険ではない、おいしい商売というわけだ。
『闇経済の怪物たち』(溝口敦/光文社)は、そんなグレーゾーンの商売でボロ儲けをしてきたという9人の成功者への取材をまとめたものだ。著者は、『血と抗争 山口組三代目』(講談社)、『暴力団』(新潮社)などの著書が多数ある、裏社会ネタの第一人者ともいうべきジャーナリストである。
■変わり身の早さがグレーなビジネスの成否を決める?
本書に登場する9人の商売は、裏情報サイト運営、出会い系サイト運営、デリヘル経営、危険ドラッグの製造・販売、闇カジノのディーラー、FX投資、六本木の飲食店経営、ヤミ金、ヤクザ…など多岐に及ぶ。なかには、ほぼホワイトに近いグレーもあれば、限りなくブラックに近いグレーもある。ひとくちにグレーといっても、グラデーションがあるのだ。また、グレーゾーンの商売をしているといっても、暴力団に籍を置いているか、違法行為の証拠を警察がつかむまでは、法的には一般人と同じ、つまり堅気である。
この本で一番興味深いのは、グレーゾーン商売の移り変わりの早さだ。法律がひとつ変われば、昨日までグレーだった商売が、あっという間にブラックになり、警察の捜査の手が伸びる。
たとえば、2003年に貸金業法が改正され、ヤミ金の取り締まりが厳しくなると、業者の多くは危険ドラッグの販売に商売替えをしたという。しかし、2013年に厚労省が危険ドラッグの指定範囲を広げたことで、この商売も危険になった――という具合だ。
こういうとき、どれだけ素早く身を引いたり、変わり身ができるかどうかがグレーゾーンの商売を成功させる秘訣であるという。本書に登場する9人はおおむねその辺の判断が早い。だからこそ、成功できたのだろう。
ちなみに、複数のグレーゾーン・ビジネスマンたちが、次の商売のタネとして「仮想通貨」に目をつけているのは興味深い点だ。別の見方をすれば、彼らが目をつける以上、仮想通貨はまだ危うい部分がある、グレーゾーンのものということなのだろう。
■グレーゾーン・ビジネスでボロ儲けした男たちの素顔
そして、9人に共通しているのは、意外かもしれないが基本的にみな勤勉で、真面目で、慎重で、バランス感覚があり、自己管理が徹底しているということだ。
“危険ドラッグの帝王”と呼ばれたKは、高卒ながら独学で薬学・化学を勉強し、世界的な研究者レベルの知識を身につけた。あるいは、ヤクザの熊谷正敏は、「まず朝早く起きて、やりたくないと思った仕事から始める。シノギに当たっては、最悪の事態を覚悟する。いろいろな変化や条件を想定しながら仕事をする」ことを自分へのルールとして課している。こういった語りなどはもはや、「シノギ」という言葉を伏せれば、ほぼエリート・サラリーマンの掲げるようなメソッドだろう。ビジネス系自己啓発本などに書かれていても、少しもおかしくない言葉だ。
本書に登場する面々は、表社会のホワイトなビジネスでもきっと成功したに違いないと思われる。ただ、彼らの大半は、社会に出たスタート地点で、資金やコネ、学歴などに恵まれていなかった。そういう人間が大金をつかもうと願ったときにグレーゾーン・ビジネスで起業するほかなかったのかもしれない。あなたが異世界だと思っていたグレーゾーンに関わる人々の姿勢は、堅気の人間にとっても「仕事」に対する取り組み方の参考になるかもしれない。
文=奈落一騎/バーネット