元経済ヤクザが明かす「黒い錬金術」の最前線。3億円が瞬く間に220億に――!?
公開日:2019/9/1
日産元会長、カルロス・ゴーン氏の事件をめぐっては、あまりに複雑なその様相から、一般市民には問題の根幹がいまだにまったく見えてこない。
せいぜい、平家物語の「おごれる人も久しからず」を思い浮かべながら、「やっぱりおごり高ぶって私腹を肥やそうとしたら、その身を長く保つことができないんだな…」などと感想を浮かべるほかはない。
しかしである。いやいや、この一件は「ゴーン氏が日産の金を使って私腹を肥やしたという単純なものではなく、国際金融を舞台にしたマネーロンダリング(資金洗浄)だ」と、事件の背後に金融をめぐる巨大な闇があることを指摘する人物がいる。それが、『金融ダークサイド 元経済ヤクザが明かす「マネーと暴力」の新世界』(講談社)の著者で、猫組長こと菅原潮氏だ。
■もし「黒い経団連」があるならば、ゴーン氏を会長に推挙したい
本書の第1章で著者は、ゴーン氏とそのサポーター的存在が行ったとされる金融行為を解説する。元山口組系組長として、実際にマネーロンダリングに手を染めたからこそ知りえた知識とスキルに基づく詳細な分析は、本書の読みどころのひとつだ。
そして著者は、ゴーン氏が行った一連の金融操作を「黒い錬金術」と称し、「もし『黒い経団連』があるならば、ゴーン氏を会長に推挙したいほどの人物だ」と、扱いなれたかのような洗浄手腕について皮肉をこめて評価している。
ここで簡単に著者の紹介をしておこう。
菅原氏は高校生の頃から株投資の世界に開眼。大学(経済学専攻)へ進学するも、わき始めたバブル景気に誘われるように2年で中退し、不動産会社へ入社。その後、投資会社へ移籍する。この会社でバブルの波に乗って順調に稼ぐも、1989年に大物との仕手戦に敗北して投資会社は倒産し、2億円ほどの負債を背負う。債権者の1人でもあった山口組系組長に「身につけたスキルで返済したい」と話をつけて、経済ヤクザとしての人生をスタートさせた。2015年末にヤクザを引退し、現在は投資活動の他、評論や著述業を行っている。
本書には、そんな著者の組長時代の武勇伝も登場する。ヤクザ伝と聞いてイメージしがちなケンカや抗争ではない。「3億円をできるだけ大きな金額にしてケイマンのオフショアに移転させてほしい」という、ロシア人からのミッションの達成だ。
■3億円を220億円に大変身させるマネーロンダリング手法
第5章「マネーのブラックホール」では、このミッションをコンプリートした際のマネーロンダリング手法を詳細に明かしている。ちなみにミッションにある「できるだけ大きな金額にして」とは、儲けを乗せて・太らせて、の意味である。
金融の世界に浅い筆者は、マネーロンダリングとは、資金をさまざまに迂回させて出所を隠す作業かと思っていた。しかし実際には、出所不明にすることだけでなく、あの手この手で“巨額”にしてしまう手法でもあったのだ。
この時のミッションで著者は、3億円をロンダリングして最終的には額面2億ドル(約220億円)に大変身させている。一般人にとっては驚きしかない金額だが、著者によれば、「今回のケースは原資が黒いというだけで、国際金融の世界では合法的な運用として日常的に行われている」のだという。
■仮想通貨、フィンテック、AI投資の未来予想図
本書の興味深いところは、著者のリアルな体験談に触れるだけでなく、裏金融世界のさまざまな歴史も学べる点にある。
例えば、銀行は、いかに表(ホワイト)金融と裏(ブラック)金融の間を取り持ち、しのぎを削っているのかといった実態や、アメリカ政府などがこれまでいかに暴力を駆使しながら「ドル」を世界の基準通貨にしようとしてきたかなどの歴史、さらに、マネーロンダリングという手法を生み出したマフィアの歴史なども解説されている。
また、仮想通貨やフィンテックの未来予測、AI(人工知能)による株投資の現状といかにAI予測に対抗するかというアドバイスについても詳細に書かれているので、金融に興味のある人には読みどころ満載の1冊となるだろう。
著者によれば、この先、強力な軍事力を背景にドルの価値を死守しようとする米国に対し、世界最先端の仮想通貨技術と米国を超える軍事力を秘めたロシアの、頂上決戦の攻防が展開される可能性があるという。
とにもかくにも、国際情勢と金融は切っても切れない関係にあり、そこに足を踏み入れると、ホワイトもブラックもない。果たして人類はどこまで、マネーという怪物に踊らされるのだろうか。その現状の「リアル」を知りたい人に、本書は多くの示唆を与えてくれるだろう。
文=町田光