話の長い男・古舘伊知郎の反省!? 相手に刺さる「一点突破の凝縮ワード」会話術
公開日:2019/9/2
「しゃべりの総尺が長くなる」男を自認する古舘伊知郎さんが反省しているらしい。それは「テレビの喋りが長尺すぎたこと」…なにを今更! 話の短い古舘さんなんて古舘さんじゃない! と思うところだが、それには大きな理由があった。このほど発売された著書『言葉は凝縮するほど、強くなる』(ワニブックス)でその理由を明かしている。
それはバラエティ番組から長い間遠ざかっていたこと。12年間に及ぶ報道番組キャスター生活を経て、華々しくバラエティ番組の舞台に戻ってきたのはここ数年のことだ。しかし、世に求められていたのはひな壇トーク。大勢のタレントがキャスティングされているひな壇トークは「短い持ち時間の中で、いかにおもしろいこと、気のきいたこと、鋭いことを言えるか」が勝負となる。
古舘伊知郎さんと言えどもそんな舞台で実況解説、自己主張…と一気呵成に喋ったとしよう。浮いてしまうに決まっている。古舘さんは「自分の喋りは受け入れられていない」と痛切な思いをしたそうだ。12年の歳月で、テレビ、特にバラエティ番組で求められる喋りはすっかり様変わり。古舘さんの話は長すぎた。
本書はそんな古舘さんの反省と共に、ブレーンである放送作家の樋口卓治氏との会話の中で気づき、編み出されていった「人の心に刺さり、響く一点突破の凝縮ワード」を用いた会話術を集約している。カギとなるのは「相手ファースト」「一点突破の凝縮ワード」だ。
■すり抜け力=「控えめに言って最高です!」
相手を褒めたいここぞ!という時に使える凝縮ワード。じゃあ普通に「最高!」でいいんじゃないかと思うところだが、古舘さんはここで計算している。「控えめに言って」がどう作用するかというと、例えば映画を「最高!」と言いたくても、「映画のことそんなに詳しいの???」「じゃあどこが最高なの??」とツッコんでくる人もいる。そうなると途端にオタオタしてしまうが、そんな時、言い切らずにすり抜ければ自分は安全なエリアにいるまま、相手に気持ちよくなってもらえるかもしれない。
■ずらす力=(料理に対し)「いやぁ〜好きな人にはたまらないでしょうねぇ」
料理がイマイチだなぁ…と思った時に味の感想を求められるピンチな状況。どうにもコメントできない時。そんな時強みを発揮する言葉がこれだ。この時のポイントは間を置いて、美味しいのかまずいのか分からない表情のまま「いやぁ〜」のどうでもいい部分にアクセントを置くこと。これは「私の考えは保留します」という意味になり、そこに自分がいないことにしたまま料理の美味しさに話の焦点を当てる。結果として相手への敬意は表すことができる。
■ウソの断定力=(映画で寝ていたことを指摘された時)「俺は映画を観に行ったんじゃない、戸田奈津子の字幕を観に行ってたんだ!」
明らかなウソも言い方次第では笑いになる。誰もがウソだとわかることを潔く断定した言い方をすると、戸田奈津子氏の映画翻訳の素晴らしさを表現しつつ、「俺には俺の見方がある!」と一本気なところもアピールできてなんだかおもしろい。そしてこのウソは誰も困らない。
さて、これらの例をもってしても「でもこれって古舘さんだからできるんじゃない」と思う口下手な人たちも多いと思う。あらゆるテクニックを知り得て「いざ実行!!」とすると上手くいかなかったり。
そんな時、古舘さんが言うのは「言いよどむ」のは失敗でもなんでもない、ということ。話の途中で次の言葉が出てこなくなったとしても、人間の不完全さを補い合うことこそがコミュニケーションであり、「…え〜〜」「あ〜〜…う〜〜〜」となっている時も“言葉の肌触り”で「あ、こういうこと??」とフォローし合うことができる。言葉には言葉だけでは表現しきれない想いや背景が隠れているのだ。
だからちょっとくらい上手く話せなくても失敗だと思わなくていい。古舘さん曰く「覚せい剤で捕まった人が一番共感できるのは実際に覚せい剤をやっていて更生した人の話」。喋りで失敗したことのない人なんていない。喋りで「やっちゃった〜〜〜」と思っている者同士、本書を通じて大きく共感でき、成長できるかもしれない。
文=線