暗躍する“黒幕”を1冊にまとめたら「大人の怪人図鑑」のよう!? 政界、財界、芸能界の裏を操る黒幕の横顔
公開日:2019/8/31
つい先日、芸人と反社会勢力の関係が社会問題となったが、この一件への反応は世代によって、かなり分かれていたようだ。ある程度年齢が上の世代の人には、何を騒いでいるのかよくわからなかったという人も多いのではないだろうか? その理由のひとつは、かつて芸能界と反社会勢力の結びつきが普通の光景だった一時代があるからだ。
『知ってはいけない! 日本の「黒幕」図鑑』(別冊宝島編集部:編/宝島社)は、芸能界のみならず、政界、財界、マスコミなど、さまざまな業界の裏側にいた「黒幕(フィクサー)」150人のプロフィールを紹介する1冊だ。フィクサーとは、背後にいて強力な影響力をもち、正規の手続きを経なくても決定に関与することができる人物のことである。
本書は全5章構成。第1章「戦後の「大黒幕」」では、右翼フィクサーの児玉誉士夫や読売新聞社主でCIAとの噂も絶えなかった正力松太郎、日本船舶振興会初代会長の笹川良一など、「黒幕」の大物ともいうべき人物たちが紹介されている。山口組組長の田岡一雄も、ここで紹介されている。彼らの多くは、ひとつの業界にとどまらず、政財界、マスコミ、芸能界などあらゆるジャンルをまたいで強大な影響力を振るっていた。まさしく、日本の首領(ドン)たちである。
第2章「闇の紳士たち」では、暴力団や右翼、総会屋などが多数紹介されている。稲川会初代会長の稲川聖城や、力道山と親交の深かった東声会会長の町井久之、大日本愛国党総裁だった赤尾敏などだ。ピンクレディーの背後にいたという総会屋の小川薫も、この章で紹介されている。
第3章「キングメーカー」で紹介されているのは、政治の世界、とくに首相を決める際に圧倒的な影響力をもっていたという「黒幕」たちだ。自民党副総裁だった大野伴睦、同じく自民党副総裁だった金丸信、自民党幹事長だった野中広務など、大物政治家がズラリと並ぶ。
続く第4章「政商たちの肖像」では、そんな政治の世界と密着し、勢力を拡大したとされる財界人たちが数多く紹介されている。東急電鉄創業者の五島慶太、西武グループ創始者の堤康次郎、リクルート会長の江副浩正などである。
そして、第5章「業界の首領」では、“エビジョンイル”とまで呼ばれたNHK会長の海老沢勝二、新潮社取締役で「怪物」と呼ばれた齋藤十一、ジャニーズ事務所創業者で先日亡くなったジャニー喜多川など、各業界の「黒幕」たちが紹介されている。
「黒幕」と呼ばれた人物の紹介は、それぞれ2ページずつなので、もし興味を引かれる人物がいたら、それぞれについて詳しく書かれた本を読むといいだろう。ただ、本書が眺めていて飽きないことは確かだ。大人向けの「怪人・怪獣大図鑑」のようなものとして読むのが、正しい楽しみ方であろう。
ところで本書では、それぞれのページで、その人物ならではの名言も紹介されている。大物「黒幕」たちの言葉は、さすがに強烈なパワーワードが多い。いくつかピックアップして、本稿の締めとしたい。
「学問のある者は学問で世の中に奉仕する。私は金で世の中に奉仕する」(笹川良一)
「長生きの秘訣は転ぶな、風邪引くな、義理を欠け、だ」(岸信介)
「子どもの数を数えられるうちはまだ半人前だ」(堤康次郎)
文=奈落一騎/バーネット